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プロ直伝の動物園撮影!多摩動物公園で躍動感溢れる姿を撮ってみよう

2025/11/07
プロ直伝の動物園撮影!多摩動物公園で躍動感溢れる姿を撮ってみよう

ビックカメラの販売員が、プロのカメラマンに弟子入りしてワンランク上の撮影テクニックを学ぶ連載企画。

今回は、ビックカメラ立川店・カメラコーナーの大嶋章子さんが、東京都日野市の多摩動物公園で動物撮影にチャレンジします。動物園は、被写体との距離が近いようでいて、実はとても奥深い撮影スポットです。柵やガラス越し、限られた光──そんな制約の中で「どう撮るか」が腕の見せどころ。

先生は、「プロが教える花撮影!神代植物公園でバラを撮ってみた!」に引き続き、写真家のミゾタユキさん。カメラ設定から柵の“消し方”、表情を引き出すコツまで、プロならではの視点で動物たちの魅力を最大限に写し出す方法をレクチャーしてもらいました。

目次
    写真左、ミゾタユキ先生(以下、ミゾタ)、大嶋章子さん(以下、大嶋)

    舞台となる多摩動物公園には、サーバルやキリンが暮らすアフリカ園、コアラやカンガルーがいるオーストラリア園、そしてトラやゾウなどが見られるアジア園といった多彩なエリアがあります。

    動物たちを美しく撮るためのセッティング

    ボディは「Nikon Z5II」、レンズは「NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR」と「NIKKOR Z 24-70mm F2.8 S II」

    今回使用したカメラのボディは「Nikon Z5II」。フルサイズセンサーを搭載したミラーレスカメラで、最新の画像処理エンジン「EXPEED 7」によって、動物の一瞬の動きや表情を逃さない高いAF性能を備えています。3Dトラッキングによる被写体追従もスムーズで、柵越しや木陰でもピントを正確に合わせてくれる頼もしい相棒です。

    レンズは2本を使い分け、1本目の「NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR」は、広角から超望遠までカバーする14倍ズーム。1本で撮影場所の雰囲気まで伝える“引き”から動物の“寄り”まで撮影でき、柵を前ボケにして“消す”テクニックにもぴったりです。

    もう1本の「NIKKOR Z 24-70mm F2.8 S II」は、明るくて描写力の高い標準ズーム。屋内のコアラ館や逆光のシーンでも、柔らかなボケと自然な立体感で被写体を美しく表現できます。

    大嶋 今日はよろしくお願いします!動物園での撮影はほとんど初めてなので、少し緊張しています。
    ミゾタ こちらこそよろしくお願いします。それでは、カメラの設定をしましょう。今日の撮影内容に合わせて、次のような設定にしてみてください。
    動物園での撮影を想定したカメラの設定

    ・撮影モード:A(絞り優先)
    ・フォーカスモード:AF-C
    ・AFエリアモード:3Dトラッキング
    ・ホワイトバランス:自然光オート
    ・ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート
    ・ISO感度:オート(上限ISO 6400)
    ・シャッタースピードの低速限界:1/500秒
    ・アクティブD-ライティング:オート
    ・AF補助光:オフ
    ・Fnボタン:FX/DX切替/ガイドライン表示

    ミゾタ 簡単に説明すると、絞り優先にすることでボケのコントロールで動物の背景の整理がしやすくなります。ホワイトバランスは屋内に入ったら標準オートに切り替えましょう。ピクチャーコントロールの「リッチトーンポートレート」は、動物の毛並みが硬くならずに写真にメリハリをつけられるのでおすすめです。それと動物を驚かせないためにAF補助光はオフにしておきましょう。

    ステップ1:柵を“ボカして消す”+動物の表情に注目

    最初に訪れたのは、アフリカ園にあるサーバルキャットの展示エリア。さっそく見慣れない動物がいて、動物園の“異世界感”にワクワクします。しかし、岩の上でこちらをうかがって目線をくれる一方、動物園撮影の天敵である「柵」が気になるとの話に。

    ミゾタ 柵は“消す”より“気づかせない”という発想でいきましょう。絞りを開放+長い焦点距離(望遠)+柵との距離の近さを組み合わせて柵を前ボケさせると、あまり目立たなくなりますよ。
    大嶋さん撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II f/2.8 1/640 ISO400
    大嶋 あっ。柵の白い線がふんわり溶けました。
    ミゾタ 目と口角の微妙な変化を見てください。
    ミゾタ先生撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/8 1/500 ISO2000 +0.3EV

    次に訪れたのは、同じくアフリカ園内にあるチーターの展示エリア。俊敏さと迫力にあふれたその姿は、まさに野生そのもののエネルギーを感じさせます。

    ミゾタ いまちょうど顔の角度が変わりましたけど、耳の向きとか、目の形で気持ちがけっこう出るんですよ。耳が後ろに倒れていると警戒しているとか、前向きだと興味を持っているとか。そういうところを見ると「いま、何を考えてるんだろう?」って想像できて面白いし、写真でもそれが伝わると思いますよ
    ミゾタ先生撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/8 1/500 ISO2000 +0.3EV
    大嶋 表情や仕草に注目していくと、もっと近寄って撮りたくなりますね。
    ミゾタ 「Fn」ボタンでフォーマットを「FX」→「DX」に切り替えましょう。焦点距離が1.5倍相当の計算になるので、いまの望遠400mm×1.5で約600mm相当まで寄ることができますよ。

    ステップ2:DXクロップで、もう一歩寄る

    ミゾタ先生撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/8 1/500 ISO1250 +0.3EV
    ミゾタ そして、こういう動きの早い動物って、表情も一瞬なんですよね。まばたきしたり、あくびしたり、ちょっと舌を出したり。だから、その直前から連写でシャッターを切る感じで。「あ、あくびしそう」とか「目を細めそう」っていう予兆を見てると、いい瞬間が撮れると思います。
    大嶋さん撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/8 1/500 ISO1100
    大嶋 いままばたきしましたけど、ほんとに一瞬ですね。……あっ、舌がちょっと出る瞬間が撮れました!

    ステップ3:全部入れない勇気(+ピクチャーコントロールの活用)

    ミゾタ先生撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/8 1/500 ISO800 +1.0EV

    アフリカ園での最後の撮影はキリン。給餌(きゅうじ)中の様子は迫力がありますが、背景にはパイプや建物などの人工物が多く写り込みやすく、構図づくりが難しい場面です。

    大嶋 うーん。キリンの全身を入れようとすると、どうしても人工物が気になりますね。
    ミゾタ 思い切って“部分で語る”に切り替えましょう。
    ミゾタ先生撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/8 1/500 ISO2200 +1.0EV
    ミゾタ まつげや耳、舌、しっぽなど“動きが出るパーツ”に注目してみましょう。体がひねる、足が上がる、舌が伸びる──そうした「途中の動作」を待つのがコツです。
    ミゾタさん撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/7.1 1/500 ISO1800 +1.0EV
    大嶋 舌が葉をはむ一瞬に合わせると、写真が急に生き生きしますね。
    大嶋さん撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/6.7 1/500 ISO640
    ミゾタ いいですね。ここではトーンを変えてみましょうか。ピクチャーコントロールを「モノクロ」に切り替えてみてください。ネットの線や背景の構造物が一色になって、キリンのシルエットと動きだけが際立ちます。
    大嶋さん撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/5.6 1/500 ISO720 55mm
    大嶋さん撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/5.6 1/500 ISO800 58mm
    大嶋 本当だ、全然印象が違います。線も気にならなくなって、表情や動きに集中できます。
    ミゾタ そうなんです。モノクロは“整理の手段”でもあります。色を削ぐことで、被写体の仕草やリズムがより鮮明に見えてきます。

    ステップ4:ガラス越しの撮影は工夫が必要

    次はオーストラリア園に移動して屋内の展示エリアへ。人気のコアラですが、光量が少なく、手前のガラスで反射も出る難易度の高いシチュエーションです。

    大嶋 ガラス越しで自分が写り込んじゃいますね。
    ミゾタ ガラス越しの撮影は、角度の調節が大切です。正面からよりも、少し斜めに立つと反射が減りますよ。
    ミゾタ先生撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/8 1/125 ISO6400
    ミゾタ あと、服の色も意外と影響します。黒やグレーみたいな落ち着いた色のほうが映り込みにくいんです。レンズフードはガラスに軽く当てて、光が入りにくいようにしてみましょう。
    大嶋さん撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II f/4 1/80 ISO400 -0.3EV
    大嶋 ほんとだ、映り込みがほとんどなくなりました! 毛並みも前より柔らかく見えますね。
    ミゾタ いい感じです。コアラはあまり動かないですけど、呼吸のタイミングを待って撮ると表情が出ますよね。鼻の湿り具合とか、まぶたの重さとか、耳がちょっと動く瞬間。ああいう小さな変化を見つけてあげると、“生きてるな”っていう感じが写りますよ。

    ステップ5:主役を探そう

    続いてやってきたのは、園内のちょうど中心部にある鳥のエリア(ウォークインバードゲージ)。中には放し飼いになっているゾーンもあって、どこを見ても被写体がいる状況です。

    ミゾタ ここ、すごく賑やかですね。鳥がたくさんいると、どこを撮ったらいいか迷いますよね。まずは“奥・中・手前”の3つに分けて考えてみましょう。奥は止まり木、真ん中は群れ、手前は地面。その中で「この一羽を主役にする」って決めると整理しやすいですよ。
    ミゾタ先生撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/8 1/500 ISO640 -0.3EV
    大嶋 あっ、なるほど。そうするとフレームの中がすっきり見えますね。整列した瞬間は気持ちいいです。
    ミゾタ先生撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/8 1/500 ISO1000
    ミゾタ そうそう、みんな同じ方向を向いたり、等間隔に並んだりすると一気に“絵”になります。あと、歩いたり羽ばたいたりしたときは、1/60とか1/100くらいにシャッタースピードを落として“軽く流す”のも面白いですよ。背景がふわっと動いて、写真にリズムが出ます。逆にピタッと止めたいときは1/10001/2000秒くらいまで上げて切り替えましょう。
    大嶋さん撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/8 1/500 ISO1000
    ミゾタ先生撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/8 1/500 ISO1600

    ステップ6:逆光を恐れない。露出補正と光の使い方

    ミゾタ先生撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/8 1/500 ISO1600
    ミゾタ 白い毛や逆光では、+0.3~+1.0EVで顔を明るくし、ハイライトの飛びをヒストグラムで確認します。
    ミゾタ先生撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/4-8 1/500 ISO1600 +1.0EV
    大嶋 目に光が入ると、写真がぐっと良くなりますね。
    ミゾタ そうそう。キャッチライトは顔の向きと自分の立ち位置との関係で入ってきます。それとキリンのときにはリッチトーンポートレートからモノクロに変えて白黒写真を撮りましたが、今回はクリエイティブピクチャーコントロールで色味を変えてみましょう。白い羽の表現がどう変わるのか見てみてください。
    ミゾタ先生撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/8 1/500 ISO560 +0.3EV
    ミゾタ先生撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/8 1/500 ISO560 +0.3EV
    ミゾタ ほかには今日みたいな曇りの日は光が柔らかいから、羽の面もきれいに出やすいですね。だから逆光でも怖がらずに撮ってみてください。

    動物撮影は共感を呼ぶ瞬間や構図に注目しよう

    ミゾタ先生撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/8 1/500 ISO2000 +1.0EV
    ミゾタ先生撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/8 1/500 ISO2000

    今日1日を通して学んだのは、動物園という制約があっても、立ち位置と判断で“野生風”に近づけられるということ。目に光を入れ、耳や口角の小さな変化を見つけ、予備動作からピークを待つ。それらの積み重ねが、写真を“記録”から“共感の体験”へと変えてくれることがよくわかりました。

    大嶋さん撮影 Nikon Z5II + NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR f/8 1/500 ISO400
    大嶋 今日いちばんの気づきは、“全部入れない勇気”ですね。あと、柵などができるだけ入らない構図や位置を最初に考えるのも新鮮でした。表情を読み取って、動きのピークを待つっていう感覚もすごく勉強になりました。
    ミゾタ 構図→表情→動きのピークという順番で考えられるようになると、どんな動物でも落ち着いて撮れるようになるはずです。
    大嶋 次は、朝のやわらかい光でも試してみたいです。光の感じが違うと、また見え方も変わりそうで。
    ミゾタ それ、いいですね。朝は空気も澄んでいるし。今日は曇りでしたが、晴れているときは逆光や斜光の光を選んで撮ってみてください。優しい雰囲気やワイルドな雰囲気が狙えるのでおすすめです。同じ個体でも時間帯が違うだけで、まったく違う物語が撮れますよ。
     

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    Profile
    大嶋章子
    カメラコーナー フォトマスター検定準1級
    大嶋章子
    子どもとお出かけするときにはいつもカメラを持ち歩いており、日々の成長を写真に残すのが楽しい。 最近は動物(主に鳥)の撮影にハマっていて、時間を作って近くの公園でジョウビタキやエナガを撮っている。
    ミゾタユキ
    写真・講師
    ミゾタユキ
    日本大学藝術学部映画学科撮影コース卒。シーンの中のワンショットに魅かれ写真の世界へ。カメラ誌やWEB、セミナー講師、フォトコンテストの審査などを通じて写真の楽しさを伝える活動にも携わる。撮影会&web講評「フォトプラネッタ」主宰。著書「カメラでパチリ へやねこ そとねこ」、共著「美しいボケの教科書」など多数。 日本作例写真家協会JSPA
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    照沼健太
    文・写真
    照沼健太
    大学卒業後、「MTV PAPER」「MTVJAPAN.COM」の編集を担当。その後、株式会社インフォバーンにてWebコンテンツ制作、Webディレクション、SNSプランニング等の経験を積み、独立。「AMP」編集長を経て、音楽・カルチャー・広告等の分野にて編集者・ライター・カメラマンとして活動。2018年、コンテンツ制作を行うため『合同会社ホワイトライト』を設立。
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