この数年、年代・性別を問わずApple Watchを着けている人を見かける機会がグッと増えました。テレビCMを目にして気になっている人もいらっしゃるでしょう。
Apple Watchの機能は、消費カロリーや心拍数、睡眠時間等の計測、iPhoneと連携した通知やアプリ操作など多岐にわたります。中でも注目を集めているのが、医療・ヘルスケアに関連する機能です。そこで、今回は医療の現場で早くからApple Watchを活用している、杏林大学医学部付属病院 循環器内科 診療科長の副島京子(そえじま きょうこ)先生にお話をうかがいました。
副島先生はカテーテルアブレーションを受ける心房細動患者にApple Watch Series 10を装着し、治療前後の運動耐容能や睡眠、生活の質、心機能の変化を観察する研究の第一人者で、従来困難だった日常生活の把握や治療効果の評価に役立てることが期待されています。
Apple Watchとの上手な付き合い方とは? 私たちが使う意義とは? Apple Watchの購入を検討中の方はもちろん、すでにお使いの方にも知ってほしい、活用のポイントをご紹介します。
発見から術後まで、Apple Watchと不整脈治療
副島先生は不整脈治療を専門とし、診療科長を務める杏林大学医学部付属病院 循環器内科でリードレスペースメーカー治療を日本で最初に実施するなど、海外の最新医療機器や新しい治療法を積極的に取り入れています。Apple Watchも早い時期から外来診療で活用していらっしゃいます。
Apple Watchと心臓の病気、といえばCMでも目にするような“一命を取り留めた”場面を想像しがちですが、そうしたケースはごく一部だといいます。医療の現場では実際どのように活用されているのでしょうか。
| 副島先生 | 患者さんが心臓に異常を感じて来院された場合、異常が何に起因するものなのか、問診だけでは専門医でも診断できません。診断には異常が起きたその時の記録が非常に重要ですが、24時間のホルター心電図検査(小型心電計を装着し、長時間心電図を記録する検査)でも捉えるのが難しいこともあります。しかし、Apple Watchなら患者さんが異常を感じたその時に心電図を取ることが可能です。実際に、近年はApple Watchで計測した心電図の記録を持ってこられる患者さんが増えています。 Apple Watchの「心電図」は、心電図アプリを開いた状態でデジタルクラウン(Apple Watchの右上に搭載されている回転する円形のダイヤル(竜頭))に30秒間指を当て、心電図を計測する機能です(Apple Watch Series 4以降に搭載。SEは非対応)。結果はiPhoneの「ヘルスケア」アプリに保存され、PDFに書き出すことも可能です。 |
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さらに、病気の発見だけでなく、カテーテルアブレーション治療後の経過観察にも役立つことがあります。実際、治療後の患者さんが自宅で計測した心電図を持参し、再発の兆候を早期に把握できた例もあるそうです。
カテーテルアブレーションとは、カテーテルという細い管を血管から心臓へ挿入し、心房細動の原因となる異常な電気信号を発生する部位に高周波電流を当てて焼灼(しょうしゃく)し、隔離する治療法です。ただし、一度治療しても時間の経過によって焼灼部位の伝導が回復したり、ほかの部位に異常が発生するケースがあり、慎重にフォローしていく必要があります。
| 副島先生 | カテーテルアブレーション治療をした患者さんには、通常は2年くらい様子を見た後で地域の医院に移っていただいています。そのときに、『Apple Watchなどでモニタリングすると参考になりますよ』とお伝えしているのですが、実際に使い始めた患者さんが、術後数年経ってから『Apple Watchにアラートが出た』と来院されたことがありました。検査をしたら実際に再発していることがわかり、治療につながりました。 |
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Apple Watchによる日常的な記録は、こうした再発の可能性を早期に察知し、医師との連携をスムーズにするための一助となるとのこと。
自分の健康状態に興味を持つ「きっかけ」に
心臓だけでなく、最近はApple Watchの通知をきっかけに「睡眠時無呼吸」の症状で受診する人が増えているそうです。睡眠時無呼吸とは、睡眠中に繰り返し呼吸が止まったり浅くなったりする症状で、多くの場合いびきを伴います。低酸素の状態が続くため脳や心臓、血管に負担がかかり、脳卒中や心筋梗塞、突然死につながることもある怖い症状です。程度によっては「睡眠時無呼吸症候群」と診断がつく病気でありながら、本人は自覚しにくいために発見が遅れることが少なくありません。
Apple Watch Series 9以降では、睡眠中の呼吸数を計測し、通常と比べて大きな変化や乱れがある場合に通知が届く機能があります。これにより、本人が自覚しにくい症状の存在を早期に知るきっかけとなり、医療機関での検査・治療につながるケースが増えていると考えられます。
「ヘルスケア」アプリの「呼吸の乱れ」機能。30日間以上の計測で呼吸の乱れが「高い」状態が一定以上あると「睡眠時無呼吸の疑い」が通知されます(「Apple、数十億の人々に影響を及ぼす症状をサポートする画期的な健康機能を発表」より引用)。
| 副島先生 | Apple Watchは医療機器ではないので、この計測だけでは診断や治療はできず、改めて医療機器を使った検査が必要です。しかし、正しい診断につながるきっかけとしては非常に重要です。Apple Watchがなければ症状に気づかなかった患者さんも多かったのではないでしょうか。 |
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このように日常的な使用の中で異常に気づけば、早期に治療できたり、病気になる手前の状態から改善に取り組んだりすることができます。副島先生は、日頃から自分の身体の状態を意識することの大切さを強調しました。
| 副島先生 | 心不全の治療に関するある研究では、治療チームの輪の中で病気に関して学び、治療内容を自覚してもらった患者さんと、一方通行で治療を受けるだけの患者さんとでは、圧倒的に予後が変わる(前者のほうが良好)という結果が出ています。自分の身体に自分自身が興味を持ち、理解することは、健康を考える上でとても大切なことなのです。Apple Watchはそのきっかけになると考えています。 |
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Apple Watchを信頼するポイント
活動量や心拍数を計測できるスマートウォッチは、Apple Watch以外にもさまざまなメーカーから発売されていますが、副島先生は「信頼性の面ではApple Watchが優れている」と話します。
| 副島先生 | ポイントはやはり、心電図が正確である点と、診断が比較的正しい点です。医療機関が使う心電図が12誘導であるのに対し、Apple Watchは1誘導なので、キャッチできない所見もあります。それでも、患者さんが異常を感じたその場で取れることが大事です。あるとないとではまったく違います。 Apple Watchの心電図アプリは、日本では管理医療機器(家庭用心電計プログラム)として厚生労働大臣から承認を受けています。こういった点も信頼できる理由の一つです。 |
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副島先生自身もApple Watchのさまざまな機能を使いこなしていらっしゃいます。
| 副島先生 | アクティビティリング(*1)を見て、今日は階段を登ってみようとか、ジムでメニューを追加してみようとか思いますし、『マインドフルネス』も1分程度で頭がクリアになるので仕事中によく使っています。ほかにも「聴覚」「日照」など、目立たない機能も含めてよく考えられていると思います。Apple Watchを使わなければ、自分の1日の消費カロリーを気にかける人はほとんどいなかったのではないでしょうか。 |
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*1:アクティビティリング
Apple Watchに搭載されている機能で、「ムーブ(運動による消費カロリー)」「エクササイズ(早歩き以上の運動時間)」「スタンド(1時間に1分以上体を動かした回数)」という3つの目標の達成状況を、それぞれ色のついた円(リング)で可視化して表示するもの。
*2:マインドフルネス
「いまこの瞬間」に意識を集中し、自分の思考や感情、周囲の状況を評価や判断をせずにありのままに観察する心の状態を指す。東洋の瞑想(めいそう)が起源であり、特に仏教的な瞑想に由来。
副島先生が重ねて強調したのは、病気を持つ人でなくても、計測を参考に自分の“いまの状態”を把握することに意義がある、という点です。例えば去年と比べて、または5年前と比べて、自分の消費カロリーや歩行距離、心肺機能はどの程度変化しているのか、体感だけでは判断できません。
しかしApple Watchの計測記録を見て、低下傾向に気づけば自主的なトレーニングで向上を目指せるかもしれませんし、異常な変化に気づけば病気の早期発見につながるかもしれません。指標になるものの存在が重要なのです。
Apple Watchはハード、ソフトともに毎年アップデートがあり、「こうなってほしい」と思っていたことが1~2年のうちに実現されることもよくあります。そうした積極的な開発に対する姿勢も副島先生が信頼を寄せるポイントです。
先生が現在特に期待しているのは、血圧測定機能の搭載です。病院で血圧を測ると高めに出てしまう人が多いため、Apple Watchを使って自宅で継続的に測定できれば「医師としてこんなにやりやすいことはない」と期待を示しました。
医療分野でのデータの活用に見る、さらなる可能性と課題
副島先生は現在、杏林大学医学部付属杉並病院と共同で、カテーテルアブレーションの治療を受ける患者さんを対象に、治療前後の変化を観察する研究を進めています。ここにもApple Watchが活用されています。
<参考リンク>
Apple Watch を活用した?房細動治療の新たな研究に着手 医学部循環器内科 副島教授、毛利助教 | お知らせ | 杏林大学 (kyorin-u.ac.jp)
| 副島先生 | 患者さんにはApple Watch Series 10を使用してもらい、カテーテルアブレーション治療の前後で運動機能や心肺機能がどの程度変化するのか、その経過を調べています。術前は心不全を起こすためあまり動けなかったり、歩ける距離も短かったりする患者さんの変化を、アクティビティや最大酸素摂取量といった具体的な数字で追いかけられることが利点です。 心房細動の治療では近年、日常的な運動や生活習慣の改善、また合併疾患のコントロールが重視されるようになっていますが、患者さんの生活状態を医師が詳細に把握することは困難でした。そこでこの研究では、Apple Watchで記録したデータを患者さんの同意のもとで共有することで、医師と患者双方が“見える化”できるようになっています。 |
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日本では個人情報保護の観点からデータ活用に慎重な傾向があり、その結果、医療のデジタル化やデータ利活用は欧米に比べて遅れていると副島先生は指摘します。
| 副島先生 | Apple Watchは医療機器ではないものの、異常の早期発見や生活習慣改善のきっかけとして大きな可能性を持ちます。心房細動だけでなく、転倒や酸素飽和度の低下の把握、自宅や介護施設での睡眠モニタリングなど、ITを活用した健康管理は着実に広がりつつあります。 |
|---|---|
副島先生は、自分の身体に関心を持ち、日々の運動量や睡眠状態を数値で把握し、必要に応じて改善や受診につなげることの重要性を強調。計測データが患者と医師をつなぎ、適切な診断や治療、予防へとつながる未来に大きな期待を寄せています。
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