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夏のゲリラ豪雨に備える!都市型水害から家族を守るためにできること

2025/06/26
夏のゲリラ豪雨に備える!都市型水害から家族を守るためにできること

地球温暖化&ヒートアイランド現象で“ゲリラ豪雨”が多発

「ゲリラ豪雨は、局地的にザーッと突然降る大雨を指しますが、実はこれ、正式な気象用語ではなく、“突発的に降る大雨”というニュアンスを表現するためにメディアなどが使い始めた言葉なんですよ」

近年、ゲリラ豪雨が増加している背景には、2つの要因があるとのこと。
まず1つ目は、「地球温暖化」による影響。気象庁と文部科学省が作成する『日本の気候変動2025』では、地球温暖化の影響で極端な大雨が増え、その強度も増していると公表されています。

「気候変動と大気・海洋の諸要素の変化」として極端な大雨が増えている状況が図示されている(「日本の気候変動2025」より)。

「大量の雨が短時間に降る現象は、暖かい空気と冷たい空気がぶつかり合い、大気の状態が不安定になることで引き起こされます。
地球温暖化が大雨の頻度や強度に直結しているのは間違いありません。もはや“異常気象”ではなく、“気候そのものが変わってしまった”と考えるべき時代です」

線状降水帯の発生を示すレーダーを指す敷波さん。

もう一つの要因として挙げられるのが、「ヒートアイランド現象」。

「コンクリートやアスファルトで覆われた都市部は、熱を蓄積しやすいため、暖かい空気が滞留し、大気が不安定な状態に陥りやすくなります。さらに、自動車の排気ガスやエアコンの室外機からは常に熱が放出され、高層ビルが密集している都市では風通しが悪く、熱がこもりやすい構造に。こうした条件が重なることで、都市部はゲリラ豪雨が発生しやすい“熱の温床”となっています」

ゲリラ豪雨の予測には「雨雲レーダー」が優秀!

まさに“ゲリラ”的な大雨ですが、事前に察知する方法はないのでしょうか?

「民間の気象情報会社が提供している天気アプリの雨雲レーダーは非常に有効です。自分の位置情報に合わせて、ピンポイントで雨雲や雷雲を確認できます」

また、天気予報で「大気の状態が不安定」「天気の急変に注意」「雷の恐れあり」といったキーワードが出たら、ゲリラ豪雨が発生する可能性が高まります。天気アプリで雨雲レーダーをこまめにチェックし、空模様や風の変化にいつもより注意を向けましょう。

加えて、空や風といった自然の“サイン”を見逃さないことも重要です。

「黒い雲が近づいてきた」「遠くで雷の音が聞こえる」「突然冷たい風が吹いてきた」といった現象は、天気が急変する前触れです。できるだけ早く屋内に避難したり、予定を切り上げたりして、安全を優先した行動をとりましょう。

筆者自身、2歳の子どもと近所の公園で遊んでいたとき、「10分後に激しい雨が降ります」という通知が届いて、大急ぎで帰宅。間一髪でゲリラ豪雨を回避できた経験が。雨雲レーダーの精度、あなどれません。

「気象情報は、無料の天気アプリやサービスが充実しているので積極的に活用してください」と敷波さんは言います。

都市型水害は、「内水氾濫(はんらん)」と「アンダーパス」に注意せよ

実際に都市部ではどのような被害が想定されるのでしょうか?

「大雨による川の氾濫や土砂崩れは、主に川沿いや山間部など、自然が多い地域で発生します。一方、都市部の河川はしっかりと治水されており、台風の直撃など、よほどの事態がない限り、洪水のリスクは比較的低いといえます。

それよりも、都市部はコンクリートやアスファルトに覆われているため、地面に水が染み込みにくく、大雨になると下水道の排水能力が追いつかず、水が外に溢れ出る“内水氾濫”による浸水被害が深刻です。

特に注意すべき場所は「アンダーパス」。アンダーパスとは、道路と鉄道などが立体的に交差する地点で、道路が地下に掘り下げられた構造のこと。周囲よりも地面が低いため、雨水が集まりやすいのです。

ゲリラ豪雨のように集中した雨が降ると、アンダーパスは一気に冠水する危険性があります。問題は、その危険性が外見からはわかりにくい点です。もともと低い場所に水がたまるので、深く浸水しているか見た目では判断しづらいのです。

特に夜間は視界も悪く、“大丈夫だろう”と進入して、想定以上の深さにはまる事故が多発しています。調べたところ、実際に滋賀県で高齢の歩行者がアンダーパスで溺死(できし)するという痛ましい事故も起きているそうです。高齢者の外出時は特に注意が必要です」

その対策として有効なのが、関東地方整備局などが提供している「道路冠水注意箇所マップ」。これは、冠水の恐れが高い場所を示したもので、自宅周辺や通勤・通学ルートに危険箇所がないかを事前に確認しておくと安心ですね。

アンダーパス部の道路冠水注意箇所マップ【東京都】」より
関東甲信地域における道路冠水注意箇所マップ | 道路 | 国土交通省 関東地方整備局 (mlit.go.jp)?

屋外&屋内でゲリラ豪雨に遭遇したらどうする?

では、実際にゲリラ豪雨に遭遇した場合、どのように行動すればよいのでしょうか?

【屋外編】

「外出中にゲリラ豪雨に遭遇したら、近くの頑丈な建物に避難することが第一です。避難できる場所が見つからない場合は、木などの高いもののそばには絶対に近づかず、姿勢を低くしてその場をやり過ごしてください」

特にアンダーパスは周囲より地面が低いため、雨水が集まりやすく、短時間で冠水する恐れがあります。

「“冠水しているかも?”と思ったら、無理に進まず、すぐに戻ること。もし車で進み、途中で止まってしまったら、まずエンジンを止めます。

東日本大震災の教訓ですが、ドアが開かない場合は窓から脱出しなければならないため、内側から窓を破れるように日頃から脱出用ハンマーを車の中に備えておくと安心です。

もし冠水しているのを発見して通行止めになっていない場合は、警察や消防、道路管理会社などに通報して、被害を最小限に抑えるのも有効です」

さらに、地下街や地下鉄の出入口、一軒家の地下室など、もともと低い場所も要注意。ゲリラ豪雨で水が一気に流れ込み、逃げ遅れるケースも報告されています。

【屋内編】

また、ゲリラ豪雨が起きたとき、屋内にいる場合はどうしたらよいでしょうか。

「雨だけでなく、雷や突風、ひょうなどが起こる可能性があり、飛来物によって窓ガラスが割れることもあるので、まずは窓から離れましょう。高層マンションの上層階は特に風が強いため、より注意が必要です。

事前に窓ガラスに飛散防止フィルムを貼ったり、養生テープやガムテープで補強したり、特にゲリラ豪雨が頻発する夏の間は、日頃から備えておくと、台風の備えなどにも繋がります。他にも、浸水対策として吸水式の土嚢(どのう)は、省スペースで収納できて便利ですよ」

さらに、注意すべきは雷とのこと。雷は積乱雲が発達した時に起こりやすく、ゲリラ豪雨の際は雷を伴うことも多いそう。

「雷対策も必須です。電話線やアンテナ線に繋がる電化製品を介して雷が侵入して感電することもあるので、電化製品からは1m以上離れてください。またパソコン類の電源も抜いておきましょう。意外な注意点として、落雷時の入浴は避けた方が安全です。水道管や排水管を通じて電気が伝わることもあります。

また、落雷による停電の恐れもあるため、モバイルバッテリーを常にフル充電にしておき、蓄電池式のポータブル電源を備えておくといいですね。自分が住んでいる場所の自治体の防災メールや防災アプリを入れておくと、生活範囲の情報を入手できるので心強いですよ」

ちなみに、最近では高性能なポータブル蓄電池の人気が高まっており、家電量販店でも売れ行きが伸びているとのこと。気になる方は停電・災害時の備えとしてチェックしてみてください。

真夏の災害には「熱中症対策」が必須!

ゲリラ豪雨への備えを考えるうえで、特に重要なのが「熱中症対策」だと、敷波さんは力強く話します。

「ゲリラ豪雨をはじめとした水害は、特に夏に多いため、暑さ対策は必須です。浸水や落雷によって停電した場合、エアコンが使えないことを想像してください。割ったら冷たくなる冷却パックや乾電池で動く扇風機、冷感シートなど、電源を使わなくても涼をとれるアイテムを備えることが何より重要です」

さらに、敷波さんが強調するのは、衛生環境の確保。

「災害時は心身ともに疲弊しますし、特に夏は不衛生な環境がストレスの原因にもなります。非常用トイレやマウスウォッシュ、水のいらないシャンプーやボディタオルなど、最低限の清潔を保てるアイテムも備えておくことが大切です。

さらに、気をつけるべきは子どもや高齢者。放課後、小学校からの帰り道など、大人の目の届かない場所で子どもたちがゲリラ豪雨に遭遇した際、正しい行動を普段から伝えてください。

また、高齢者に対しては、天気が急変しそうな日であれば『外出は控えたほうがいいよ』『午後に大雨が来るみたいだよ』といった一言のアナウンスが、大切な命を守るきっかけになります。特に一人暮らしの高齢者には、周囲のさりげない気遣いが非常に効果的なんです」

ゲリラ豪雨のような局地的な大雨では「特に注意すべきは子どもと高齢者」と念を押す。

都市で暮らす人こそ、地域のつながりを大切に

最後に、このように気候変動が続く日本で、気象予報士・防災士として、敷波さんが伝えたいことを熱く語ってくれました。

「人の命を守る仕事がしたい」と、2021年のコロナ禍に気象予報士の資格を取得した。

「気象災害は年々、頻発化・激甚化しており、“まさか”と思うような現象が現実に次々と起こっています。自分や家族の命を守るために、“後悔しないための備え”をしてください。

たとえば、地震が起きて瓦礫(がれき)の下に閉じ込められた場合、消防や自衛隊によって救助されることもありますが、実際には近隣住民に助けられるケースも少なくありません。大規模な災害では、行政の支援がすぐに行き届かないこともあります。そんなときに命を守る鍵となるのが“地域の支え合い”なのです。

特に都市部ではマンションなどの集合住宅で生活する人が多く、隣の人が誰かわからないことも。地域のつながりが希薄化しているからこそ、普段から信頼できる関係を育てておくのは大事なことだと思います」

敷波さんは昨年6月に出産し、一児の母になりました。子どもを守る立場となったことで、防災に対する意識はより実生活に密着したものへと変わってきたと話します。

ゲリラ豪雨という現象を通じて、気象予報士・防災士である敷波さんから届けられた熱いメッセージ。その一言一言を胸に刻みながら、いまこそ、災害への備えを見直すタイミングです。この夏を安全に乗り越えるためにも、日常で行える準備を一つずつ始めてみてください。

 

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Profile
敷波美保
監修
敷波美保
気象予報士、防災士、気象防災アドバイザー。オフィス気象キャスター所属。お茶の水女子大学文教育学部芸術・表現行動学科(舞踊)卒業。「しまじろうコンサート」歌のお姉さんや、千葉テレビ「ウィークリー千葉県」レポーターを経て、気象予報士になる。現在は日本テレビ「DayDay.」「日テレNEWS24」に出演中。 
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岸綾香
岸綾香
ライター&エディター。大手出版社の女性週刊誌で約20年、料理、美容、グルメなど、実用記事を中心に幅広いジャンルで取材&執筆を行う。Web媒体では料理やヨガなどの動画記事を担当。週刊誌で鍛えられた体力&根性で40代から子育て奮闘中。
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