お客様の“聞こえる”を支える!認定補聴器技能者、神田慎太郎さんの挑戦
ビックカメラの名物販売員に話を聞く連載企画「ビックな仲間たち」。シリーズ第六弾はビックカメラで唯一の認定補聴器技能者である神田慎太郎さん。
メガネをはじめ、補聴器を取り扱う分野は、医療にも通ずる難しそうなコーナーです。最新の補聴器事情から、接客で心がけていることをお聞きしました。
新卒で入社する前から配属は「メガネ・コンタクトコーナー」を強く希望
──最初に神田さんご自身の経歴について簡単に教えてください。
2010年に入社し、新宿西口店、新宿東口店、有楽町店、池袋本店を経験しました。その後は有楽町店を経て池袋本店に行きました。
池袋本店では実際にお客様のお住まいに出向いて、補聴器を販売する「ホーム販売事業」を立ち上げ、これをきっかけに補聴器のバイヤーと販売員を兼務し、現在は有楽町店にて勤務しております。
仕事を通してこうした経験を積みながら、公益財団法人テクノエイド協会が定める認定補聴器技能者の資格を取得し、いまはビックカメラで唯一の認定補聴器技能者です。
──ビックカメラでのキャリアはどのように始まりましたか?
「メガネ・コンタクトコーナー」で働きたいという想いで入社を希望しました。
当時、面接官から「やりたいコーナーはありますか?」と質問されたとき、すでに「メガネ・コンタクトコーナーでお願いします」とお話ししていましたね。「では、もし他のコーナーに配属されたらどうしますか?」と質問されても、潔く「辞退します」と本気度をアピールしました(笑)。
メガネやコンタクトは、医療分野の要素もあります。ずっと専門性を追求できそうだなと思っていました。
入社時の思いがくつがえるほど強い補聴器の魅力
──入社時はメガネ・コンタクトの担当を強く希望されていましたが、補聴器の分野に携わるようになったきっかけは何ですか?
補聴器がメガネ・コンタクトよりもっと魅力的だと感じたからです(笑)。
最初は同じコーナーにあることも知らなかったのですが、入社してから先輩に「補聴器もやっているんだよ」と聞いて、「うわぁ~もっと面白いのが来た~!」って(笑)。もうそこから補聴器にゾッコンですね。
──すごく目が輝いています(笑)! そこから認定補聴器技能者に至るまで詳しくなったのはなぜですか?
当時は、売場の担当者の中で補聴器に詳しい人があまりいませんでした。
ですから、補聴器メーカーから店舗に来ていただいていた、専門スタッフの方の横でいつも勉強させていただきました。
入社2年目には、「補聴器のことなら私が売場で一番詳しい」と自信を持って言えるくらい勉強しました。
──補聴器の販売や取り扱いに対して、最初に感じた難しさや魅力はどんなものですか?
難しさとも魅力とも言えるのですが、「人生を預かる」という緊張感が常にあります。
人は、耳が聞こえにくくなることによってコミュニケーションが減るんです。ご家族の方と会話をしなくなる人もいますし、電話を取らなくなる人もいます。聞こえにくいので、テレビも「面白くない」からと観なくなり……出かけることも億劫になってしまう。そんな方をたくさん見てきました。
──どんどん内に閉じこもっていってしまうのですね。
そんなとき、せっかく補聴器を提案しても、それがその方にマッチしていないと、「補聴器をつけたけど、ダメだった」とさらに心を閉ざすことにもつながります。
補聴器はその方の耳になるわけですから、体の一部とも言えます。そこを預かるのは、やはり緊張感なくしてできませんし、そこで補聴器の意味を心から実感していただけたら何よりやりがいを感じます。
補聴器はその人の生活にコミットする医療器具
──ビックカメラで取り扱っている補聴器の特徴や、ビックカメラならではの強みについて教えてください。
お客様自身が多くの商品の中から比較でき、ご自身にぴったりな補聴器を選べるのは大きな魅力だと思います。
補聴器を販売している他社様の店舗であれば通常、3社ほどの取り扱いが多いでしょう。しかしビックカメラは多数のメーカーを取り扱っております。
お客様の好みや生活スタイル、ご予算に応じて幅広い選択肢からご提案できるのは、ビックカメラならではですね。
またビックカメラならほかの家電を見に行くついでに、気軽に補聴器を手に取れる。「とりあえず見に行こう」と気軽に足を運べるというお声もいただいています。
──お客様に補聴器を提案する際に、特に気をつけているポイントはありますか?
補聴器のご案内をするときに、お客様がどんな生活をされているか、どんなことにお困りなのか、を一つひとつ丁寧に伺うことでおすすめする商品が見えてきます。
基本的に価格の高い商品ほど性能や素材は良いものになりますが、それをお客様が必要とされていなければ結局は使わなくなってしまいます。
ご予算内でお客様にとって最善なものは何かを常に意識するようにしています。
また、高齢のお客様が多いのですが、慣れない環境でお話をいただくのは、負担になってしまうものです。ヒアリングをさせていただくときには、あらかじめ頭の中で質問を精査して30分以内で終えられるようにしています。
──具体的にどのようなことを確認して提案しているのでしょうか?
つけ心地はもちろんですが、お客様の生活スタイルや、聞こえない音の種類……つまりしっかり聞き取りたい音を確認しています。
たとえば1日のほとんどをテレビを観て過ごす高齢者の方と、複数人でサークルをしていたり、お食事会に頻繁に行かれたりする方では、選び方がまったく変わります。
また音の違和感に敏感な方には、雑音抑制に優れた、ある程度お値段が高い補聴器をご提案することもあります。その分、話している方にフォーカスしてきちんと音を拾ってくれるので、コミュニケーションがしっかり取れるようになるというメリットがあります。
──補聴器とは別に集音器というものもありますが、両者の違いやその用途の違いについてお教えください。
名称上は医療的認定を受けていないものを集音器と呼びます。集音器は多くの音がいっぺんに大きくなるので、使う場所が難しいです。
集音器は、テレビショッピングやインターネットでも売っているので、簡単に手に入ることが多いです。しかし話している人それぞれにフォーカスして、音を補正して聞きやすくしてくれる機能はありません。
補聴器をご案内していると、自分がいままで集音器を使っていたことにようやく気づく方も多くいらっしゃいます。違いを知らないために、集音器を使いながら「補聴器を買ったのに聞こえ方が変わらない」みたいな誤解をしてしまう方も多いんですね。
補聴器は「医療機器」に分類されますが、集音器はあくまでも「家電」 。メーカーが医療機器として厚労省に申請して、登録完了して初めて補聴器として認可されます。
──最新の補聴器について聞かせてください。
従来の補聴器は、「空気電池」というボタン電池を用いたものが主流でした。 しかしいまは8割ほどの補聴器が充電式を採用しています。
さらに、音声処理技術とワイヤレス技術を両立した次世代の補聴器「スマート補聴器」という、イヤホンのような見た目のものも裾野を広げています。フルワイヤレスで、 Bluetoothでスマートフォンとつないで音楽を聞いたり動画を試聴したりもできます。もちろんノイズキャンセルもありますね。
あとは オーラキャスト という、特定の送信デバイスから複数の受信デバイスに音声を放送できる技術も注目されています。これは美術館などで、来場者のイヤホンや補聴器に向けて音声アナウンス案内が入ったり、公演会場でセリフや演奏などを明確に聞き取れるようになったりします。
また、イヤホンのような見た目のものも裾野を広げています。現在は、補聴器でも備わってきている機能ですが、フルワイヤレスでBluetoothでスマートフォンとつないで音楽を聴いたり動画を試聴したりもできます。
まだ整備がされてはいませんが、近い将来、そういった画期的なシステムが一般化することが期待されています。
認定補聴器技能者の資格がないと接客もできない!? 専門性が必要な補聴器販売
──認定補聴器技能者の資格を取得しようと思ったのはなぜですか?
お客様から「認定補聴器技能者はいますか?」というご質問が多かったんです。当時は「いません」とお答えするしかなかったのですが、そうするとお客様が来店してくださることはありません。
この資格は、取得するのに最低でも4年かかります。しかし、お医者さんが認定補聴器技能者からの補聴器の購入を推薦していること、お客様の信頼を得る点からも取得する意味があると思っていました。
認定補聴器技能者になるには、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が認定する補聴器相談医と連携しているという事実を証明する必要もあります。ビックカメラは医療機器を専門に取り扱っている店ではない為、親しくしているお医者さんとのコネクションもありませんでした。
しかし、補聴器の必要性やその機能のことをきちんと理解しているからこそ、私はその資格を保持して接客のスタートラインに立ちたかったんです。
ちなみに資格はストレートで合格しました!
──さすがです! 資格を取得することで、お客様への対応にどのような変化がありましたか?
まず「認定補聴器技能者」と名乗れるようになり、 遠方のお客様にもご来店いただけるようになりました。
また補聴器に興味があるお客様に一通りお話ししたあと、「認定補聴器技能者さんなんですね」「また来ます!」と言ってもらえることが多くなりました。
──お医者さんからの紹介数も変わりましたか?
知識を持つスタッフが少なかったこともあり、当初はあまりビックカメラの補聴器販売に良い反応を持っていただけませんでしたが、いま思い返すと当然ですよね。
でも地道に各医療機関にお電話をしたり、ご挨拶に行ったりしてお話を伺ううちに補聴器への情熱や知識を理解していただけたのか、その際に「期待しているよ」と声をかけてもらうようになりました。
これまで話したとおり、補聴器の取り扱いは常に緊張感があります。だからこそ、信頼していただくには時間がかかったんですね。
いまでは多くのお医者さんから私宛に紹介状をいただくことが増えました。少しずつ、信用していただけるようになったのかなと、うれしく思います。
補聴器は人生を変えるもの。訪問販売サービスを立案
──訪問販売サービスを立案するに至った経緯を教えてください。
そもそもお店に行きたいけど行けないという方も多いんです。入院先だったり、足が不自由だったりと、いろいろな要因があります。そのため訪問販売は絶対に需要があると思っていました。
サービスを立ち上げると、やはり狙い通りで需要はあり、朝から晩まで何軒も回ったことがあります。対応範囲は、私一人で一都三県。当初は、ちょっと無理があるかなと思うほど、県をまたいでかけ回っていましたね(笑)。
──訪問販売サービスの特徴やメリットは何ですか?
生活環境がそこにはあるので、お客様のご負担が減るのもいいことかと思います。
またご家族が近くにいらっしゃるのでコミュニケーションのことを聞けたり、使い方や機能を一緒に聞いてもらえたりするのもメリットだと感じました。
──実際に訪問販売を行ってみて、どのような反応がありましたか?
まずご自宅だとリラックスしてらっしゃる印象があります。また、訪問販売はお客様が移動する負担がありません。足腰の負担や、聞こえにくいことが気になって外出を避けている方でも気軽に相談できることから「近所の人にも教えるね!」と、積極的に紹介してくださる方もいて、うれしかったですね。
しかし以前、80~90歳くらいの、難聴がかなり進行している方をヒアリングしたことがありました。じつは、聴覚は一定期間使われないと、その機能が戻りにくいとされています。具体的には聴力が40%を切ると、補聴器を使っても効果を感じられないんです。
そこで「効果がないので、補聴器の購入はやめましょう」と話をしたことがあります。多くの人に「聞こえる生活」を届けたいと思っている私にとっては、苦しい提案でした……。
こういった提案を今後なるべくしなくても済むように、多くの方に、聴覚の仕組みや補聴器の大切さを知っていただけるコミュニケーションを丁寧にしていければと思っています。
最新の情報を収集しながら、補聴器の機能と未来を考える
──補聴器以外で、神田さんが最近注目している技術や製品はありますか?
やっぱり普通のイヤホンとかは気になっちゃいますね(笑)。
いまは若い人でも抵抗なくつけられる補聴器も多く、Bluetooth機能が備わっているものもあります。ただ「音楽を聞く」という目的だけで言えば、やはりイヤホンにはかなわないというところがあります。
補聴器に、音楽を楽しむことに適した機能が備われば、若いうちから補聴器を使うという選択肢も生まれるかと思います。
そういう意味ではイヤホンやテレビの音を手元で聴ける「お手元スピーカー」も気になる存在です。
「補聴器を選びに、ビックカメラに行こう」と思ってもらえるように
──この仕事で一番やりがいを感じることやうれしい瞬間はどんなときですか?
一番はお客様からの感謝の言葉です。ご購入いただいたお客様から聞こえづらかった声や音が聞こえるようになって「まるで白黒の世界に色がついたようでした」 と言われたことがあります。
老いを認めたくない、だから補聴器もつけたくないと思っている方が多いものです。そんな中、私が話した内容を信用してくださり、人生が変わったと言っていただけるのはうれしいことです。
また、補聴器があったからこそ、亡くなる間際まで会話ができたと話してくださったご家族様もいました。最後までコミュニケーションがとれた思い出を提案できた気がして、なんとも言えない感慨深い気持ちになりましたね。
──素敵なお話しです。では神田さんご自身の今後の目標やビジョンについて教えてください。
認定補聴器技能者を増やし、訪問販売サービスを日本全国で行えるようにしたいです。そうすれば補聴器の調整も幅広く、スピーディにできる上に、お客様が生活で困っていらっしゃる要因を掴みやすくなると考えています。
そのためにも補聴器の説明を詳しくできる、認定補聴器技能者の資格を持つスタッフが必要です。
そして、より多くのお客様にビックカメラでも補聴器を買えるということを知ってほしい。近い未来には、補聴器を買うときの候補店として5本の指には入っていたいと思っています!
──ビックカメラでの今後の展望や、新しい取り組みに対する意気込みはありますか?
日本では難聴とされる方の15%ぐらいしか補聴器を使用していません。ということは、85%の方は難聴のまま悩んでいらっしゃる。この状況をどうにかしないといけません。
そんなときビックカメラを思い出してもらい「気軽に相談できる」と思ってもらいたいです。
補聴器は3か月くらいご自分の聴覚との兼ね合いで調整が必要なものです。
3か月くらい経って、その違いに感動するものですが、この3か月のあいだに足を運びにくくて、調整をやめてしまう方がいます。
まだまだ日本では、目が悪くてメガネを買うことは急ぐのに、聴力に不満をもっていてもすぐに「補聴器を使おう」となりません。
難聴は、加齢に伴い老眼を発症することと同じだと私は思います。難聴が進行して補聴器さえも使用できなくなる前に、購入を検討していただきたいです。
そのため、もしご自身の聴力に不安や疑問がある方は、ぜひご相談にいらしてくださいね。一緒に聞こえ方を確認し、より良いご提案ができればと思います。
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