ビックカメラの名物販売員に話を聞く連載企画「ビックな仲間たち」。今回は特別企画として、女子ソフトボールリーグ(JDリーグ)で活躍するビックカメラ高崎の上野由岐子投手と藤本麗選手に、後半戦に向けての抱負を語ってもらいました。
二人は個々のパフォーマンスやチーム全体の成長について語り、今後の目標や挑戦を見据えた決意を表明。さらなる飛躍を誓うメッセージをお届けします。
若返りゆえの不安と課題
──9月7日から、今季の女子ソフトボールリーグの後半戦が始まりました。前半戦を終えて、ビックカメラ高崎は14勝4敗で東地区の同率2位。今季、これまでの戦いを振り返ってみて、いかがですか。まず、今季からキャプテンに就任した藤本選手からお願いします。
藤本 |
昨季が終わってから、先輩方がたくさん抜け、チームが若返りました。正直、前半戦は苦しい試合ばかりでしたが、若いだけに課題がたくさん出てきて、夏はその課題を解決できるよう練習を重ねてきました。 |
上野 |
シーズンが始まる前から、苦しい戦いになるというのは想定していました。実際、強い相手に勝つこともある。それでも、負けてはいけない試合を落としてしまったこともありました。若さのせいなのか、まだまだ力不足なのか。チームとして、不安定だなということは実感しています。 |
数字や結果よりもいかに準備をするか
──前半戦で印象に残っている試合はありますか。
藤本 |
第3節ですかね。土曜日にミナモさんに1対5で負けてしまい、その翌日がNECさんとの試合でした。連敗は避けたいところでしたが、先制点を奪われてしまい、0対1のままに最終回を迎えてしまったんです。 |
──7回表の最終回。そこで逆転しました。
藤本 |
藤田倭さんが逆転の2ランを打ってくれたんです。自分自身、苦しい時期でしたし、この1勝は大きくて、チームとして本当に助けられたホームランでした。 |
──この1勝は大きかったですね。上野投手は、今季ここまでのパフォーマンスについて、どう感じていますか。
上野 |
私自身の結果、数字については気にしていません。常に考えていることは、練習中にしても、試合中にしても、自分がメンバーに対して働きかけられることはなにか。それがいつでもできるように、準備を常にしておくということです。 |
──今年、ビックカメラ高崎はキャッチャーに高卒19歳の井出が加入しました。
上野 |
そうですね。若手とバッテリーを組むときは、いろいろなことを教えながらのピッチングになっています。 |
──どんなことを伝えているのですか。
上野 |
たとえば、サイン通りに投げて打たれたとします。私からすると、違う配球もあったなと感じれば、ベンチに戻ってから「こういう考え方もあるよね」と話し合いを持つようにしています。 |
──配球の考え方を共有していると言うことですね。たとえばの話ですが、ピンチの場面で「それは違う」というサインが出た場合は、どうするのですか。
上野 |
基本的に首は横にりません。できるだけ若手に判断させて、失敗も含め経験を積んでもらうことも必要なので。 |
──なるほど。そうやって後進を育てているわけですね。
上野 |
これからもビックカメラ高崎の強さを継承していくためには、今年はこうした若手に判断させて、経験を積んでもらうことも必要だと思っています。 |
先輩たちがどんな「背中」を見せられるかが大切
──いま、上野投手の後輩の育成について話がありましたが、藤本キャプテンは、どんな形でチームを引っ張っていこうと考えていますか。
藤本 |
個人としては慌てたり、急ぐのが嫌なタイプなので、事前にしっかり準備をして、自分のペースを崩さないように心がけています。キャプテンとして先頭に立ってアクションを起こさなければならないときにも、余裕をもって行動することを心がけています。 |
──上野投手は先輩、あるいはメンターとして藤本キャプテンにはどんなことを伝えていますか。
上野 |
私は感じたままを、そのまま伝えるようにしています。これは藤本だけでなく、ほかのメンバーにもそうしているんですけどね。今年は若い選手が多いので、キャプテンがどういう行動をとるのか、それを藤本は見せればいいんじゃないですかね。 |
上野 |
気負わずに自分のスタイルでやっていけばいいと思う。そうすれば、若手は自ずとついてくるはずだと思うから。逆転勝ちしたNEC戦の話じゃないけれど、ビハインドで最終回を迎えたとき、若い選手たちに対して、先輩たちがどんな「背中」を見せられるかが大切だったと思う。諦めずに、全力でプレーしているか。声を出しているか。それがいい形で表現されたのがNEC戦だった気がする 。 |
──チームとして追い込まれた場面で、真価が問われますね。
上野 |
ビックカメラ高崎のユニフォームを着たからには、勝ちにこだわらなければいけませんが、それは追い込まれた試合だけでなく、練習、普段の生活態度から先輩たちが後輩に見せていかなければならないと思いますね。 |
藤本 |
自分としては気負うのではなく、マイペースでやっていく中で示せればいいかなと思っています。 |
後半戦に向けての目標と課題
──交流戦があり、JDリーグは10月27日までシーズンが続き、そのあとはプレーオフが待っています。後半戦に向けての目標、課題を教えてください。
上野 |
チームとして、いかに失点を減らすかということに尽きると思います。正直、前半戦は失点が多すぎました。もちろん、打線の援護で勝った試合もありましたが、バッテリーとして失点率を減らしていくことを追求していきたいです。 |
藤本 |
野手としては、1点でも多く取れるよう、打線につながりを持たせたいですね。うちにはたくさんいい打者がいるので、私が出塁すれば点数につながる可能性が大きくなります。その意味で、今季は打率を上げようと取り組んできて、少しずつ成果が出てきています。リーグ戦が再開すれば、相手もデータを分析してくると思いますが、しっかりと対応して、チャンスメイクをしていきたいです。 |
──いま、データの話が出ましたが、たとえば20年前と比べると、データが詳細になったとか、分析面には変化があるんですか。
上野 |
入ってくるデータの質が変わり、精度も高くなりました。ただ、データがすべてではありません。実際に対戦してみなければわからないこともたくさんあります。たとえば、ある右打者はこのカウントでの速球をライト前にヒットを打った。それはライトを狙って打ったのか、それとも振り遅れて合わせただけだったのか、そうした内容はデータには含まれていません。それは実際に対戦して、相手の反応を見なければわからないことなんです。 |
──面白いですね。その感触を若いキャッチャーと共有していくことが大切なんですね。
上野 |
おっしゃる通りです。「バッターを見る目を肥やす」という言い方がいちばん近いかもしれません。バッテリーとして目を肥やしていっているところです。 |
勝利への執念とプライド ─ ビックカメラ高崎が守り続ける日本一への挑戦
──後半戦への意気込みをうかがいましたが、スポーツでは「チームカルチャー」を大切にしているチームが強いと言われています。ビックカメラ高崎として大切にしている価値はなんでしょうか。
上野 |
以前、国会で「2位じゃダメなんですか?」という議論がありましたよね。アスリートの立場からすると、2位じゃダメなんです。たとえば、日本一高い山は富士山で、日本一大きな湖は琵琶湖だと、みなさんすぐに答えられますよね。でも、2位の山、湖はパッと出てこない人が多いと思います。
1位と2位の差って、それくらい大きい。私は監督や先輩方から、このチームは勝たなくてはいけないということを教わってきたので、後輩たちにもそれを伝えていきたい。ビックカメラ高崎は一番になる。その想いは崩してはいけないと思っています。 |
藤本 |
わかります。今季の前半戦は、目の前の一戦に集中するしかありませんでしたが、後半戦はプレーオフ・ダイヤモンドシリーズを見据えた戦い方ができるように意識を変えていきたいです。 |
上野 |
チームのカルチャーとして、ただ勝つのではなく、日本一のチームであり続けることが重要だと思っています。それはプレッシャーではありますが、自信、プライドにもつながっていきます。ビックカメラ高崎のユニフォームを着たからには、常に日本一を目指す姿勢を崩してはいけないし、この先何十年とビックカメラとして継承していかなければいけないものだと思っています。 |
藤本 |
その意味で、メンバーが大きく変わった今年は大切なシーズンなんです。 |
──まだ気が早いですが、4年後のロサンゼルス・オリンピックではソフトボールが正式競技として復活します。それも楽しみですね。
上野 |
ソフトボールという競技にとって、オリンピックがあるかないかというのは、大きな意味を持ちます。若い世代がソフトボールを知る、触れる機会になりますし、それが未来につながっていきますから。 |
──藤本選手は、今年は日本代表にも参加されました。
藤本 |
日本と国際試合では、ソフトボールの試合の質がこんなにも違うのかと驚くことが多かったです。 |
──どんなところで、それを感じましたか。
藤本 |
日本では内野ゴロを打ったら、まずアウトになります。ところが、国際試合ではセーフになる確率が高くなります。それだけ日本の守備が整備されているということなんですけどね。 |
上野 |
日本のソフトボールは繊細なんです。投手のコントロールもずば抜けていいですし、パワーでは劣るかもしれませんが、技術では世界のトップクラスだと思います。 |
──JDリーグの戦いが世界へとつながっている感じがします。ビックカメラ高崎の後半戦の戦いに期待しています。
上野 |
ありがとうございます。 |
藤本 |
キャプテンになってから、応援してくださっている方のサポートのありがたみをさらに大きく感じるようになっています。キャプテンとして、チームとして勝利を貪欲に求めていくので、これからも応援よろしくお願いします。 |
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Profile
上野由岐子
福岡県出身。女子ソフトボール選手。ビックカメラ高崎ビークイーン所属。ソフトボール日本代表。2004年アテネオリンピック銅メダリスト、2008年北京オリンピック金メダリスト、2021年開催の東京オリンピック金メダリスト。MVP8回、最優秀防御率賞6回、最多勝利投手賞8回。
藤本麗
広島県出身。女子ソフトボール選手。ビックカメラ高崎ビークイーン所属。2024年から同チームのキャプテンを務める。ソフトボール日本代表。スピードが売りの右投左打の外野手。
文
生島淳
1967年、宮城県生まれ。早稲田大学卒業。広告代理店に勤務しながらライターとして活動し、1999年にスポーツライターとして独立。ラグビーワールドカップ、オリンピックの取材はそれぞれ7回を数える。雑誌への執筆の他、テレビ、ラジオも出演多数。主な著書に『箱根駅伝 ナイン・ストーリーズ』『奇跡のチーム ラグビー日本代表、南アフリカに勝つ』など多数。
写真
小松士郎
LCP(ロンドン芸術大学写真学科)で写真を学び、ロンドンを拠点に撮影活動を始める。これまで、坂本龍一、石丸幹二、ジョエル・ロブション、デヴィッド・ベッカム、武豊、上原浩治など数百人の著名人を撮影。そのほか料理、静物、風景など撮影ジャンルは多岐にわたり、NHK教育講座の人物撮影、広告などでも活躍中。