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野鳥撮影をはじめる人へ -最初の一歩とレベルアップの道しるべ-

2025/10/17
野鳥撮影をはじめる人へ -最初の一歩とレベルアップの道しるべ-

野鳥撮影のおもしろさ

野鳥撮影のおもしろさは、鳥たちとの出会いを通じて、野鳥の持つさまざまな側面を知っていくことにあると思います。日本だけでも600種類を超える鳥たちが記録されていますが、その一羽一羽が興味深いですし、見せてくれる行動もさまざまなので、どこまでも深めていくことができます。

さらに、光線や背景にこだわってみたり、飛翔などの難しいシーンを極めたりというような楽しみや、その撮影した写真を通じて、その感動をシェアするという楽しみ方もあります。

鳥は種類が多いだけでなく、さまざまな撮り方のアプローチがあることも、野鳥撮影の魅力のひとつです。

目次

    野鳥撮影の始め方

    野鳥は、街中から山奥まで、さまざまな環境に生息しています。ですので、どこで始めてもいいのですが、可能であればまずは池のある公園や、街を流れる小川のような場所へ行ってみることをおすすめします。

    このような環境では、1年を通して、カルガモやアオサギ、カワウなど、大きな水鳥の姿を見つけることができ、冬にはユリカモメやキンクロハジロなどの冬鳥も多く見られます。これらの鳥は、姿が大きく、開けた環境に暮らしているため、初心者でも見つけることが容易です。また、普段から人通りのある場所では、鳥たちも人の姿をある程度見慣れているので、自然度の高い環境よりも近くで観察することができます。

    サギの中でも日本で一番大きなアオサギ/OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400 mm F4.5 TC1.25x IS PRO 焦点距離 (35mm換算):670.0mm 1/2000秒 F4.5 ISO400

    アオサギは日本で一番大きなサギです。都市公園にもよく飛来し、そのような場所にいる個体は警戒心が弱いことも多く、近くで撮影しやすいでしょう。

    金色の目と白黒が特徴のキンクロハジロ/OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO 焦点距離 (35mm換算):1000.0mm 1/1250秒 F5.6 ISO200

    キンクロハジロをはじめ、冬の池にはカモ類の姿が多く見られます。比べて識別の勉強をするのも良いでしょう。写真は左が雄、右が雌です。

    水際で水中の魚を探るカワセミ/OM-1MarkII M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO + MC-14 焦点距離 (35mm換算):840.0mm 1/125秒 F5.6 ISO400

    水鳥がいることを確認したら、水際の葦原や、橋桁などに鳥の姿を探してみましょう。このような場所には、カワセミがよく止まっています。小さな鳥ですので、コツを掴むまでは見落としがちですが、「チッ」という特徴的な声を覚えれば、意外によく見かけることに気づくことでしょう。

    桜の蜜を吸いにきたヒヨドリ/OM-1MarkII M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II 焦点距離 (35mm換算):800.0mm 1/800秒 F6.3 ISO400

    慣れてきたら、次は周囲の木立や植樹にいる鳥を探してみましょう。ヒヨドリやメジロ、シジュウカラなどの小鳥が1年中やってきます。これらの鳥は、姿が見づらい代わりに、声で居場所を知ることができます。双眼鏡も上手に使いながら、少しずつ森の小鳥の動きを追うトレーニングをしていきましょう。

    超望遠レンズを多用する野鳥撮影においてブレは大敵ですが、水辺のように開けた環境では、太陽の光が木に遮られないので、速いシャッタースピードを得やすいというメリットもあります。一方、森の中は鳥が葉陰にいたり、暗かったりといった理由で撮影は難しくなりがちです。まずは水辺でカメラの扱いに慣れることをおすすめします。

    川から飛び立つコサギ/OM-5 M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS 焦点距離 (35mm換算):800.0mm 1/4000秒 F6.3 ISO500

    大型の水鳥は、動きが比較的ゆっくりで、飛翔撮影の難易度は低めです。水辺は光も十分で、高速シャッターを切りやすいでしょう。

    このように、鳥ごとの習性の違いから、撮影の難易度やアプローチが違うことを学びながら、カメラ操作の基本を身につけ、山や海へとフィールドを広げていきましょう。

    必要な機材と双眼鏡の選び方

    野鳥撮影では以下の2つの理由で、一般的には「超望遠」と言われるような長いレンズが標準装備として必要になります。

    @野鳥を大きく写すため
    A鳥と距離をとって撮影するための

    @については、鳥が木の上にいたり、池の中ほどにいたりして、思うようには近づけないときに、レンズの望遠効果で鳥を大きく引き寄せ、十分な大きさに撮影するためです。

    Aは、一般的に野鳥は警戒心が強いので、むやみな接近でストレスを与えないために、距離をとりながら 撮影するためです。

    いずれも、鳥を驚かさないために必要なことで、アプローチが上達すればより短いレンズを使えるシーンも出てきます。初心者の方ほど、長いレンズがあると撮影チャンスは多いでしょう。

    Canon EOS-1D X Mark II + EF600mm f/4L IS II USM f4 1/15 ISO3200 WB:AUTO

    マイクロフォーサーズ規格のカメラに、400mmレンズを装着すると比較的軽量な装備で、800mm相当の画角を得ることができます。また、同じ焦点距離のレンズでも、レンズ口径が大きくなるにつれ、重量が増加し、価格も高くなる傾向があります。

    フルサイズ機だけでなく、APS-Cやマイクロフォーサーズといった規格、テレコンバーターの使用も視野に、35mm判換算で800mm前後を目安にシステムを組むと良いでしょう。トリミング前提や、鳥との距離が近い都市公園がメインであれば、400~600mm程度でも楽しめると思います。

    ハイスペックなカメラと超望遠レンズ、どちらを優先するか悩んだら、超望遠レンズを入手することをおすすめします。望遠効果で距離が稼げれば、鳥を逃してしまうことが減り、結果的に撮影シーンも増える可能性があるためです。反対に画面 の中の鳥が小さいと、無理してでも近づきたくなりますが、結果的にチャンスを逃してしまいます。

    なお、従来であれば超望遠撮影では三脚が必須でしたが、最近は手ブレ補正の進化や、高ISO感度での画質向上に伴い、手持ち撮影をされる方が増えています。そのため、本稿では手持ち撮影を前提として解説しています。

    キツツキの仲間のコゲラ/OM-1MarkII M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PRO + MC-20 焦点距離 (35mm換算):800.0mm 1/320秒 F5.6 ISO400

    コゲラは都心部にも暮らす小さなキツツキの仲間です。元は200mmのレンズですが、マイクロフォーサーズ規格のカメラにテレコンバーターを使うことで、800mm相当の画角 で撮影しました。小鳥の撮影では、35mm判換算で800mm以上の望遠 があると便利です。

    また、双眼鏡も欠かせない装備です。景色の中に鳥が隠れていないか探ったり、藪の中や葉陰にいる鳥を見つけたりするには、双眼鏡が欠かせません。鳥を見つけることができなければ撮影になりませんから、チャンスを広げるという意味でも双眼鏡の使いこなしが重要です。

    手ブレの観点から、8~10倍程度が扱いやすいでしょう。対物レンズ径は、22~28mm程度が良く、オプションで防水仕様だと安心 です。私は、8倍32mm口径の双眼鏡と、16倍50mmの防振双眼鏡を環境によって使い分けています。ただ、いずれもやや重量があるので、まずは持ち歩くのが億劫 (おっくう)にならないサイズ感の1台を手に入れることをおすすめします。

    左から、10倍25mm口径、10倍33mm口径、8倍32mm口径の双眼鏡。持ち歩きに適した重量の範囲で、予算に合わせて選ぶと良いでしょう。

    色鮮やかな夏鳥のキビタキ/OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO 焦点距離 (35mm換算):800.0mm 1/320秒 F4.5 ISO400

    キビタキは色鮮やかな夏鳥ですが、森の中では意外に見つけづらいものです。声を頼りに、双眼鏡で葉陰を探ることで姿が見つかります。

    撮影設定の基本

    まずは露出モードを決めましょう。野鳥は動くので、高速シャッターが常に必要と思いがちですが、必ずしもすべてのシーンで高速シャッターを切るわけではありません。もちろん、速いに越したことはないのですが、林内などの暗い環境でむやみに高速シャッターを切ろうとすると、ISO感度が極端に上昇し、画面が荒れてしまいます。

    枝に止まっている野鳥を写すのであれば、手ブレが発生しない範囲で低速シャッターでも撮影できます。このときおすすめなのが、「絞り優先モード」で「ISO感度オート」を使う方法。この撮影モードでは、下限シャッター速度を事前に設定しておくと、カメラが適切なISO感度を自動で設定してくれます。

    ご自身が手ブレしないシャッター速度を設定しておき、絞り開放で撮影 することで、むやみにISO感度が上昇するのを防ぎながら撮影することができます。絞り開放を使うのは、レンズの明るさをなるべく生かすためです。特別な意図がない限り、野鳥撮影では絞り開放を基本としてよいでしょう。機材や人によりますが、概ね1/100~1/500程度の間になると思います。被写体ブレが発生するようであれば、下限シャッター速度の設定を速めるか、ISO感度を手動で設定し、対応します。

    日本には冬鳥として飛来するジョウビタキ/OM-1MarkII M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO 焦点距離 (35mm換算):1000.0mm 1/250秒 F5.6 ISO400

    枝に止まるジョウビタキを撮影しました。手ブレしないシャッター速度を確保しつつ、なるべく低い ISO感度を使うことで、高画質で撮影することを心がけました。

    飛翔などの動きのあるシーンを撮影するのであれば、マニュアルモードまたはシャッター優先モードがおすすめです。高速シャッターを切ることがまず大事なので、概ね1/3200よりも速いシャッタースピードを設定した上で、ISO感度を決めます。

    撮ってみて暗ければISO感度を上げ、明るすぎたらISO感度を下げるか、シャッタースピードをさらに速くします。なお、絞りは特別な理由がない限り、開放でよいでしょう。光が潤沢にあることが大切なので、明るい環境で試してみるよう心がけましょう。

    AF設定と連写の工夫

    続いてAF設定も大切です。C-AFを基本にするのが良いでしょう。止まっている鳥は小さいAF枠、飛翔中は全体をカバーするような大きなAF枠を使うというように、AF枠の大きさを調整すると良いでしょう。被写体認識AFが搭載された機種であれば、カメラが自動でAF枠の位置や大きさを設定してくれます。

    連写は速いに越したことはないですが、撮りすぎてしまうと感じるのであれば、速度を落とすこともできます。注意すべき点は、カメラの機種によっては高速連写中にAFが追従しないことがあるので、よく確認して連写モードを選びましょう。

    機種によってはプリ連写機能が搭載されている場合もあります。時間を遡り、撮影できるというミラーレスカメラならではと言える便利機能ですが、使うシーンの見極めが重要です。私は鳥が飛び立つシーンで、1/4000以上の高速シャッターと共に使うことが多いので、そのようなシーンに遭遇したときにすぐ設定できるよう、カスタムダイヤルに登録し、設定をとっさに呼び出せるようにしています。

    一年を通して見られる身近な鳥ハクセキレイ/OM-1MarkII OLYMPUS M.150-400mm F4.5 焦点距離 (35mm換算):800.0mm 1/4000秒 F4.5 ISO800

    石から石へと飛び移るハクセキレイを、プリ連写を使い撮影しました。小鳥の羽ばたきは極めて速いので、高速シャッターが必要になります。

    知っておきたい撮影マナー

    さて、ここまで野鳥撮影の始め方をお話ししてきましたが、生き物を相手にする趣味だけに、知っておくべきマナーもたくさんあります。じつは、昨今はカメラマンのマナーが社会問題になりつつある現状があります。中には意図せず、知識・経験不足によるものもありますが、基本的な知識として、知っておくべきマナーがあります。ぜひ、ご一読ください。

    人に対するマナー

    先に観察・撮影している人がいる場合は、一度立ち止まって様子を見ましょう。慌てて近づくと、その方がせっかく待っていた鳥を逃がしてしまう可能性があります。ある程度、撮影をしたことを確認した上で、ゆっくりと近づくようにしましょう。そのタイミングで撮影できなくても、鳥は戻ってくることも多いので、「次の出現で撮影できればいい」というような 気持ちの余裕があると良いと思います。

    鳥に対するマナー

    1. 驚かさない
      • なるべく鳥を驚かさないための振る舞いを心がけましょう。ゆっくりと、小さな動作が基本です。また、鳥は追うと逃げますが、待っていれば近くにやってくることもあります。その際、しゃがむことや、物陰に隠れて待つことも有効です。
    2. 首を伸ばしたら近づきすぎ
      • 鳥は警戒すると首を伸ばします。そのような姿勢になったら近づきすぎなので、それ以上の接近はやめ、そっと距離をとりましょう。むやみな接近により飛び立たせてしまうこともできるだけ避けたいものです。
    3. 子育ての季節は巣に近づかない
      • 種によって異なりますが、3~6月の間、鳥たちは子育ての季節に入ります。巣や巣立ちビナに近づくと、親鳥が警戒し、餌を運べず、繁殖がうまくいかなくなることがあるので、巣に近づくことは避けるようにします。初心者のうちは、巣の存在に気づけないことも多いので、この季節は同じ場所に長時間とどまることは避けるのが無難です。
    4. 餌付けは禁止
      • 鳥に餌を与えてはいけません。野鳥撮影は、鳥の生活に干渉しないことが原則です。鳥を集めてしまうことが、感染症が広がる原因になることもあります。また、人や周囲の外敵に対する警戒心が薄れてしまうことも、野生動物として好ましいことではありません。

    SNS投稿時のマナー

    撮影場所の記載は慎重に判断しましょう。特に、巣や人気の鳥の撮影場所の明記は避け、できれば時間を空けて投稿するようにしましょう。特に、繁殖期に巣の場所が知られてしまうと、巣に近づく人や、近くで撮影する人を集めてしまい、繁殖放棄に繋がってしまう原因にもなります。

    ここに挙げた以外にも、種類、季節、場所によって、鳥の数だけ異なるマナーがあります。命を相手にする趣味だからこそ、野鳥の暮らしを尊重して続けていきましょう。

    野鳥との出会いを守り続けるために

    野鳥撮影はとても奥深く、そして楽しい趣味です。かくいう私も、もう20年以上にわたって続けていますが、まだまだ知らないことばかりで、興味は尽きません。一方で、その間に大きく数を減らしてしまった鳥たちがいたり、カメラマンの増加に伴う軋轢(あつれき)を目にしたり、という経験もしてきました。

    これからも野鳥撮影という趣味を楽しく続けていくためにも、カメラや写真を通して野鳥に触れた方々が、鳥や自然環境の保全にも興味を持ち、鳥たちの暮らしを守っていけるような未来につながることを期待しています。
     

    2025年11月13日(木)~12月1日(月)
    菅原貴徳 写真展「Birds carrying the sky ひかりをはこぶ」開催

    菅原貴徳 写真展「Birds carrying the sky ひかりをはこぶ」紹介画像

     

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    Profile
    菅原貴徳
    文・写真
    菅原貴徳
    2016年よりフリーランスの写真家として独立。図鑑や書籍への写真提供、執筆のほか、鳥たちの暮らす世界の楽しさを伝えるための講演、展示も多数。鳥たちとの正しい接し方を伝えるための、撮影講習の講師も務める。著書に『木々と見る夢』(青菁社)、『図解でわかる野鳥撮影入門』(玄光社)、『散歩道の図鑑 あした出会える野鳥100』(山と渓谷社)がある。
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