ビックカメラの販売員が、プロのカメラマンに弟子入りしてワンランク上の撮影テクニックを学ぶ連載企画。
今回は、ビックカメラ有楽町店のカメラコーナーの鈴木友理さんが、東京と神奈川をまたがる遊園地「よみうりランド」を舞台にきらびやかなイルミネーションを生かしたポートレート撮影にチャレンジ。先生は、風光明媚な情景を求めて世界を駆け回るプロカメラマンの鈴木謙介さんです。
楽しいイベントの多い年末年始、幻想的な光の中で思い出の“映え写真”を撮ってみませんか。
冬の醍醐味 イルミネーション撮影に挑戦!
写真左から鈴木謙介先生、モデルの三井万智さん、ビックカメラの鈴木友理さん。
今回やってきたのは、東京都と神奈川県にまたがる大型遊園地「よみうりランド」。2009年から開催されているイルミネーションイベント「ジュエルミネーション」では、園内のあちこちが宝石のように輝いています。
鈴木友理(以下、友理) |
今日はよろしくお願いします。今回は「イルミネーションでの人物撮影」がテーマということですが、すごく難しそうな印象があってちょっとドキドキしています。 |
鈴木先生(以下、鈴木) |
そうですね。イルミネーションは夜間の撮影となるため明暗差が激しくなります。また照明の色も一定ではなく、撮影する場所やタイミングによってまったく違う色になるので、気をつけるポイントは多いですね。 |
友理 |
私は普段コスプレ写真などポートレート撮影をすることが多いのですが、イルミネーションは初めてなのでちょっと心配かも……。 |
鈴木 |
大丈夫です! 写真に正解はありませんから。今回はイルミネーション撮影における基本的なコツをいくつか紹介しようと思います。 |
光の変化を表現したいなら、ホワイトバランスをマニュアルで
鈴木 |
イルミネーション撮影では、基本的に押さえておきたい2つのポイントがあります。何だかわかりますか? |
友理 |
うーん、なんだろう? |
鈴木 |
まず、1つ目が「ホワイトバランスの統一」です。 |
友理 |
ホワイトバランスですか? いつもカメラ任せの「WBオート」で設定していました。 |
鈴木 |
最近のカメラはホワイトバランス性能が優秀なので、そういう人も多いと思います。でも、今回のイルミネーションのように赤や青などカラフルな光源の場合などは、ホワイトバランスはマニュアルで設定することをおすすめします。それによって、どのカットも色温度が揃い、その瞬間の照明の色が際立ちますし、一日の撮影を通して統一した世界観が表現しやすくなると思います。今回は5560Kで設定しましょう。 |
鈴木先生撮影(NIKON D850 + AF-S NIKKOR 105mm f/1,4E ED f2.2 ISO1600 1/1600)
友理 |
WBオートで撮っていると白っぽくなりすぎて、「このお店の照明ってもっとオレンジっぽくなかった?」と思うことがあるのですが、そういう違和感が減るということですね。 |
鈴木 |
そのとおり! そして2つ目コツは「ポートレートモード」です。カメラやメーカーによって名前は変わりますが、基本的には「明瞭度とコントラストを低く設定する」と覚えておけば手動でも設定できます。「ポートレートモード」にすることで、写真全体がやわらかい雰囲気になるので、特に被写体が女性の場合は喜ばれやすくなりますよ。 |
友理 |
カメラの解像度はどんどん上がっていますが、必ずしもシャープに写りすぎるのがいいというわけでもないですもんね。これはコスプレ撮影でも役立ちそうです。 |
鈴木 |
そうそう。では、さっそく撮っていきましょう。 |
イルミネーションの当たり方を工夫してみよう
友理さん撮影(Canon EOS R6m2 + RF50mm F1.8 STM f1.8 ISO1600 1/125)
友理 |
先生! この生け垣のイルミネーションが可愛いので撮ってみたんですけど、顔が暗くなってうまくいきません。どうすればいいですか? |
鈴木 |
これはイルミネーション撮影あるあるですね。明るいイルミネーションを背景にそのまま撮影すると、顔が真っ黒になってしまいがちです。 |
鈴木 |
こうやってアングルや被写体の向きを変えて、顔が明るく写るようイルミネーションに頬に近づけてもらってみてください。 |
友理さん撮影(Canon EOS R6m2 + RF50mm F1.8 STM f1.8 ISO1600 1/125)
鈴木 |
すごくいいですね! それじゃあ私は友理さんとちょっとだけアングルを変えて撮ってみますね。 |
鈴木先生撮影(NIKON D850+AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G f/1.8 ISO1600 1/125)
友理 |
ほとんど同じ構図なのに、全然印象が変わりますね。 |
鈴木 |
大きな違いは被写体の背中側です。ちょっと通路の奥のほうが寂しい感じに見えたので、背中の奥にもイルミネーションが続くように、少しだけ角度を変えました。 |
友理 |
イルミネーションの光に包まれるような写真になりましたね。 |
鈴木 |
いま被写体の立ち位置はそのまま同じだったんですけど、撮影者が少し動いただけでもこんなに変わるんです。同じレンズ、同じ設定でも、少しの構図の変化で印象的なポートレートになるのが、スナップ写真の醍醐味のひとつだと思います。ほかにもこんな感じはどうですか? |
鈴木先生撮影(NIKON D850+AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G f1.8 ISO1600 1/60)
友理 |
さっきと同じ場所で撮ったとは思えないくらい、違う印象の写真になっていますね。 |
鈴木 |
同じ単焦点レンズを使っているので、焦点距離も同じだし、絞りも同じです。印象が大きく違う理由は2つ。まずは、被写体にほんの少し前に出てもらって背景のイルミネーションから距離を取ったことで、背景が大きくボケるようになりました。そして、頭頂部を少しカットした構図にしました。 |
友理 |
頭を切ると印象が変わるんですか? |
鈴木 |
被写体の情報量が減ることで自然と瞳に目線が行くので、 よりドラマ性のある写真になるんです。写真はレンズを交換しなくても、撮影者やモデルさんが動くことで大きく変わるのがよくわかりますね。 |
シャッタースピードで動きや楽しさを表現しよう
友理 |
うわぁ、かわいい! 先生、このメリーゴーランドで撮ってみたいです。 |
鈴木 |
いいですね! キラキラしているだけじゃなく動きがあるので、撮影しがいのあるスポットだと思います。では、さっそく撮ってみましょう。 |
友理さん撮影(Canon EOS R6m2 + RF50mm F1.8 STM f3.5 ISO320 1/25)
友理 |
うーん、なんかブレブレになってしまって全然うまく撮れません……。動いているとブレてしまうので、ちょっとズルして止まっている状態の写真を撮ってみたんですけど、やっぱり躍動感が足りない気がします。 |
鈴木 |
撮影モードは何にして撮っていますか? |
友理 |
「絞り優先」モードです。 |
鈴木 |
じゃあ、撮影モードを「シャッタースピード優先」に設定して撮ってみてはどうですか? |
友理 |
「シャッタースピード優先」? いつも「絞り優先」モードで撮っていました。 |
鈴木 |
ブレを演出するためには「シャッタースピード優先」が便利なんですよ。 |
友理 |
「ブレを演出」……ですか? |
鈴木 |
写真において「ブレは悪いこと」とされがちですが、必ずしも悪いというわけではありません。あえてブレを活かして臨場感や雰囲気を醸し出すこともできるんですよ。
たとえばこんな感じで、ブレによって被写体のスピード感を表現できます。 |
鈴木先生撮影(NIKON D850+AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G f/4.0 ISO400 1/25)
友理 |
すごい! 動きが伝わるし、楽しそうに見えますね。 |
鈴木 |
スローシャッターで動きを作りつつ、顔にピントを合わせたいのでオートフォーカスを「AF-C」に設定して、被写体にピントを追従させながらカメラを被写体の動きに合わせて撮りました。いわゆる「流し撮り」という手法ですね。
私のカメラは旧式なので、このテクニックを使うのはわりと難しいのですが、最新のミラーレスカメラならボディにもレンズにも手ぶれ補正がついていて、瞳 AFも進化しているのでそんなに難しくないはずです。 |
友理さん撮影(Canon EOS R6m2 + RF50mm F1.8 STM f2.5 ISO320 1/40)
友理 |
あっ、本当だ。楽しそうな写真が撮れました! ブレていても顔にピントが合っていれば気にならないですね。 |
絞り優先モードで玉ボケをコントロールしよう
鈴木 |
ちょっとこの2枚を見比べてみてください。違いがわかりますか? |
鈴木先生撮影(NIKON D850+AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED f2.5 ISO1600 1/1000 -1.33EV)
鈴木先生撮影(NIKON D850+AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED f2.0 ISO1600 1/1600 -1.33EV)
友理 |
パッと見た感じは同じ写真かなと思ったんですけど、よく見ると丸いボケの大きさが違いますね。 |
鈴木 |
そうなんです。この2枚は絞りが違っていて、上段が f2.0、下段が f2.5です。ほんとちょっとの数値の差ですが、前ボケで入れた光源の玉ボケの大きさが上段のほうが大きくなっているのがわかりますよね。 |
友理 |
絞りの設定数値は少ししか違わないのに、こんなにボケの大きさが違うんですね。 |
鈴木 |
どちらが正解ということはないんですけど、絞りのコントロールで写真の表情が変わる良い例だと思います。 |
鈴木 |
特にイルミネーションは点光源なので、絞り調整をうまく工夫すれば玉ボケが出て幻想的な雰囲気を作ることができます。玉ボケの大きさをコントロールするためには「絞り優先モード」が便利です。 |
友理 |
私は普段背景ボケを作るためにしか活用していませんでしたが、イルミネーション撮影ではこういう使い方もできるんですね。 |
友理さん撮影(Canon EOS R6m2 + RF85mm F1.2 L USM f2 ISO800 1/160)
友理 |
先生、いい感じに撮れたんじゃないかと思います! |
鈴木 |
すごく良い構図と表情ですね! これは私には撮れない、友理さんの感性だから撮れた写真だと思います。 |
友理 |
ありがとうございます! イルミネーション撮影での「絞り優先モード」と「シャッタースピード優先モード」の使い分けがわかってきた気がします。 |
広角を使ってダイナミックな構図にチャレンジ
友理 |
すごくきれいなトンネルですね! 先生、次はここで撮ってみたいですが、先生ならどう撮りますか? |
鈴木 |
奥に長く続いているトンネルなので、ダイナミックな構図にしてみたいと思います。 |
鈴木 |
ズームレンズ最広角の 24mmを使って、ローアングルで撮影してみました。 |
鈴木先生撮影(NIKON D850+AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 24mm f5.6 ISO1600 1/125)
友理 |
わぁ! モデルさんが魔法を使って光らせているみたいですね。 |
鈴木 |
まさに、モデルさんのポーズをイルミネーションに合わせて、花が咲くような印象にしました。じつは背景に人が小さく写っているのは意図したもので、人がいることによってトンネルの奥行きがより強調されるようになります。本来なら現像でもっと細部を追い込んで補正してもいいのですが、今回はあとでわざわざ補正しなくてもいい撮り方にフォーカスしたいので、このままにしておきます。 |
光と影・コントラストがドラマをつくる
友理 |
先生、途中で光るおもちゃが売っていたので買ってみました。これは何か使えないですか? |
鈴木 |
ハート型も可愛いですし、発光している小物を使った撮影は、今回のテーマにハマりそうでいいですね。この光を生かすために、暗い場所を探してみましょう。 |
鈴木 |
真っ暗なところでこのおもちゃを使って撮ってみると、こんな感じです。 |
友理 |
すごい! |
鈴木先生撮影(NIKON D850+AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED f2 ISO1000 1/40)
鈴木 |
イルミネーション撮影は明暗差ゆえに難しいシチュエーションですが、写真は光と影の表現なので、逆にその明暗差がドラマをつくってくれる場面でもあります。 |
友理さん撮影(Canon EOS R6m2 + RF85mm F1.2 L USM f2 ISO800 1/80)
友理さん撮影(Canon EOS R6m2 + RF28-70mm F2.8 IS STM f2.8 ISO1000 1/125)
友理 |
魔法少女っぽいカタチなので、ポーズもそれっぽくして撮ってみました! 私、よくコスプレの撮影をしているのですが、特に足元や手元にフォーカスした写真が好きなんです! |
鈴木 |
これも私には撮れない写真ですね。必ずしも顔を写す必要がないですし、モデルさんがこのおもちゃを見つけて、楽しそうにしているのを見逃さなかった鈴木さんの視点がよく出ている一枚だと思いますよ。 |
ブレなんて気にしない。楽しむことが一番大切!
鈴木先生撮影(NIKON D850+AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G f8 ISO2500 1/20)
鈴木先生撮影(NIKON D850+AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G f11 ISO2500 1/20)
鈴木 |
ここまでの流れで鈴木さんにはすでに伝わっていると思いますが、写真に正解はありません。この写真もシャッタースピード優先で 1/20 に設定し、思い切りブレを作ってストーリー性のある写真にしてみました。
たとえば手をつないで友だちや、恋人と思い切りはしゃぎ回って撮ってみるのもおもしろいと思いますよ! |
友理さん撮影(Canon EOS R6m2 + RF50mm F1.8 STM f3.5 ISO800 1/20)
鈴木先生撮影(NIKON D850+AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED f1.8 ISO2500 1/60 0.33EV)
鈴木 |
写真はテクニックやカメラのスペックを語るより、楽しむことが最優先です。
イルミネーション撮影だからといって、イルミネーションの光を撮ることだけじゃないと思うんです。一緒にいる友達や恋人の顔や服、飲み物に注目してみるのもいいですね。そこにいるだけで、全部がイルミネーションの光で染まるので、それを心の赴くままに撮ってみましょう。「おもしろい」でも「かわいい」でも、何でもいいんです。写真は心象スケッチですから。 |
友理 |
最初は難しいと思って不安でいっぱいでしたが、新しい発見がいっぱいあってすごく楽しかったです。どうもありがとうございました! |
3人とも、本日は寒い中、ありがとうございました! この冬は遊園地だけでなく、街や神社などに出かけてぜひ心温まる“映え写真”を撮ってください。
撮影協力:よみうりランド
よみうりランド
〒206-8725 東京都稲城市矢野口4015-1
ジュエルミネーションの情報はこちら期間:2024年10月24日(木)~2025年4月6日(日)
(休園日と2025年3月3日(月)~3月14日(金)の平日を除く)
【営業時間】
10:00~20:30(こちらはジュエルミネーション開催期間の営業時間です)。
※時期により変動あり、公式HPでご確認ください。
【交通アクセス】
ゴンドラ「スカイシャトル」での来園がおすすめ!
新宿方面からお越しの際は、京王線「京王よみうりランド駅」よりゴンドラ「スカイシャトル」をご利用いただくとスムーズにご来園いただけます。
また、小田急バスでもご来園いただけます。読01系統「<読売ランド前駅経由> 寺尾台団地ゆき」行きバスに乗り、「よみうりランド」で降りれば入園口は目の前です。
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Profile
カメラコーナー フォトマスター2級
鈴木友理
ビックカメラ有楽町店でカメラ担当。カメラは学生時代から興味を持って始めた。最近のマイブームはポートレート撮影で、コスプレを撮ることにハマっている。フォトマスター2級。
写真・講師
鈴木謙介
世界の光の彩りを追いかけて山岳辺境地を中心に60ヶ国以上歴訪。「International Photography Awards」で2014年と2017年にプロ部門のカテゴリー別1位を受賞。国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)での展示歴も。
文・写真
照沼健太
大学卒業後、「MTV PAPER」「MTVJAPAN.COM」の編集を担当。その後、株式会社インフォバーンにてWebコンテンツ制作、Webディレクション、SNSプランニング等の経験を積み、独立。「AMP」編集長を経て、音楽・カルチャー・広告等の分野にて編集者・ライター・カメラマンとして活動。2018年、コンテンツ制作を行うため『合同会社ホワイトライト』を設立。
店舗紹介
ビックカメラ有楽町店
- 所在地
- 東京都千代田区有楽町1-11-1
- 電話番号
- 03-5221-1111
- 営業時間
- 10:00-22:00
- アクセス
JR山手線・京浜東北線 東京メトロ有楽町線「有楽町駅」徒歩1分
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