リナ＆ジュールズ・マクスウェル/ 母なる大地 【アナログレコード】

ファドとケルト、伝統と電子音楽──詩的想像力が結実した渾身のコラボレーション！

現代ファドの進化を体現する存在として注目を集めるポルトガルの女性歌手リナ（LINA_）が、北アイルランド出身の作曲家/ソングライター、ジュールズ・マクスウェル（Jules Maxwell）とタッグを組んだコラボレーション・アルバムが登場することになりました。タイトルの『Terra Me（母なる大地）』は、ポルトガルとアイルランド──ヨーロッパの西の果てに位置するふたつの土地の記憶と詩情を重ねながら、人と自然、過去と現在を見つめ直すような深い音世界を描き出しています。

リナはクラシック声楽をバックグラウンドに持ち、リスボンのカーザ・ド・ファドでの活動を経て、伝統にとらわれない自由なスタイルを追求してきました。2020年にはラウル・レフリーをプロデューサーに迎えた『リナ＿ラウル・レフリー』（ライス INR-8044）で国際的な注目を浴び、2024年には英人音楽家ジャスティン・アダムズとの共作『ファド・カモンイス』（ライス GLR-31013）を発表。ポルトガルの誇る詩人カモンイスの言葉に旋律を与えるという斬新なアプローチで、ファドの新たな可能性を示しました。

一方のジュールズ・マクスウェルはベルファスト生まれ。リサ・ジェラルド（デッド・キャン・ダンス）の共作者として知られ、ロンドンのシェイクスピアズ・グローブ劇場をはじめとする多くの舞台作品や映画音楽の分野でも活躍しています。オペラ『The Lost Thing』（ロイヤル・オペラ・ハウス初演）や、アカデミー賞にノミネートされた短編映画『Dance Lexie Dance』の音楽も手がけるなど、幅広い分野で評価されてきました。

本作では、マクスウェルがアイリッシュ・トラッドに根ざした旋律を構想し、リナがそこに歌詞とメロディを編み込む形で制作が進められました。きっかけとなったのは、マクスウェルが2021年にリサ・ジェラルドと発表したコラボレーション作『Burn』でした。荘厳でミニマルな音響美をたたえたその作品に深く惹かれたリナがマクスウェルと連絡を取り、この共演が実現したそうです。プロデュースは『Burn』でも手腕を発揮した英エレクトロニカの俊英ジェイムズ・チャップマン（aka Maps）が担当。多層的な電子音響と静謐な構築美が、全編に豊かな広がりを与えています。また、モザンビーク生まれの詩人/作曲家/歌手アメーリア・ムジェ（Amlia Muge）が「Arde Sem Se Ver（見えぬままに燃える）」「A Flor Da Rom（ザクロの花）」「Entre O Ser E O Estar（存在と在り方のあいだで）」の3曲で作詞を担当。リナの情感豊かな歌声と融合することで、作品にさらなる深みが加わっています。

即興から生まれた表題曲「Terra Me」や「Requiem」、そしてジュールズとリナが共作したクロージング曲「When Are You Coming」まで、全9曲を収録。見えないものへの想像力、祈り、大地、記憶といったテーマが、静謐でスピリチュアルな音の風景の中に息づいています。

ファドとケルトの伝統が静かに交わり、未来への祈りへと昇華される、詩的で力強い傑作。世界の最果てに咲いたこの音楽を、ぜひじっくりと味わってください。


CDはNWR-32030