Nikon NIKKOR Z 800mm f6.3 VR S
800mmというとかつては大砲と呼びたくなるような長大重厚な巨大なレンズで使用するためには大型三脚が必至で、気軽に持ち出せる機動力は欠けていました。
Zマウント用に登場した新時代の800mmは小型・軽量化を可能にするPF(Phase Fresnel:位相フレネル)レンズをZレンズとして初めて採用し、超望遠レンズでありながら優れた携行性を獲得しました。
飛行機や鳥など高速で移動する被写体にどれほど追従していけるか、PFレンズの性能はいかなるものか、高い描写力と機動力を兼ね備えたレンズの実力を確かめてみました。

Z9にZ800mmを装着して手持ち撮影で追従してみると、ファインダーに機体のすべてが見えていてもあっという間に機体が大きくなり、一部分だけのアップになってしまいます。ファインダーを通してド迫力というか、圧倒されっ放しです。
600mmに比べて数字では200mm違うだけの焦点距離ですが、迫力は何倍も増して迫ってきます。超ド級のアップ感に超望遠の王という貫録を感じました。
カメラ:
Nikon Z9
絞り値:f6.3
露出時間:1/2000秒
ISO:640
露出補正:-0.3ステップ
露出モード:シャッター優先

撮影出来た画をモニターで見ただけで凄まじい迫力が伝わってきます。ジェットエンジンの圧倒的な存在感と巨大な車輪、機体に記されたマークや文字すらもはっきり識別できる細微な解像力。遠く離れた場所からだと小さく感じる車輪も実はとてつもない巨大なタイヤが装着されていることも画を通して実感できます。
着陸態勢に入った旅客機はゆったり飛んでいるように見えても幹線並みの猛スピードが出ていていますが、高速で飛行する機体をピタリと静止させて写し出すZ9と機体に記された記号や文字がしっかり判別できるよう写し出すZ800mmの解像感の凄さに驚かされました。この組み合わせは最強だと確信しました。

この圧倒的な存在感に満ちたエンジンと車輪。超望遠レンズの凄まじい描写力は言葉で説明するまでもなく写真がすべてを物語っています。

Zマウントレンズで初めてPF(Phase Fresnel:位相フレネル)レンズが採用され、超望遠レンズとしては驚異的な軽さを感じます。初めて本レンズを見た時にどっしりした超望遠サイズからそれなりに重いのだろうと勝手に想像していましたが、実際持ち上げてみるとあまりの軽さに面食らってしましました。こんなに軽くて描写性能は大丈夫なのだろうか、と疑問を持ちながら撮影をすると、想像を上回るヌケの良さ、解像感、シャープな描写力で写し出された画が目に飛び込んできて、更に驚きました。
轟音を立てながら頭上を猛スピードで飛行する旅客機も余裕で手持ち撮影が可能でした。超望遠レンズというよりも300mm相当のレンズで撮影しているような取り回しの良さです、とても超望遠レンズを手持ち撮影しているという実感がわきませんでした。

この圧倒される驚異的な圧縮感。着陸する旅客機と海を挟んだ公園で遊ぶ家族連れがぎゅっと濃縮されて一枚の画に収まっています。着陸する旅客機がエンジンから排出された排気ガスによって航空機の周辺が陽炎の様に揺らめいている様子もはっきり捉えられています。600mmの望遠とはひと味もふた味も違う異次元を感じさせるような圧縮感です。ダイナミックな描写に圧倒されっ放しでした。

コンテナを満載して外洋に向かうタンカー、雄大な船体がグッと引き付けられて存在感がハンパないです。

競馬場に行くと超望遠レンズを構えて迫力ある競走馬の走りを狙っているファンがたくさんいらっしゃいます。600mmを手持ち撮影で競走馬を追う“猛者”もいらっしゃる中、筆者も頑張って撮影してみました。600mmで手持ち撮影を狙うなら、軽量なZ800mmならもっと楽に撮影できるに違いありません。
芝コースから離れた位置からでも長大な焦点距離で疾走する競走馬の躍動感あふれる瞬間を捉え、まるで大三元70-200mm f2.8で撮影したかのようにクリアでシャープな描写です。


ジョッキーが必死にムチを叩きながらゴールに向かう競走馬をほぼ真正面から撮影できるスポットがあるので狙ってみました。撮影位置から200mほど離れた競走馬を圧縮感で捉える描写は圧巻です。
この日は薄曇りながら気温が高めで、芝から立ち上がる熱気をも圧縮してため競走馬が揺らめいてシャープには写らなかったのは残念ですが、超望遠レンズのダイナミックな圧縮効果が画面に描写されたので満足です。風が吹いていたらもっとスッキリ写ったことでしょう。

池の中に一輪ポツリと咲いた蓮の花を見つけました。マクロや中望遠で寄れるような位置ではありませんが、長い焦点距離を生かしてぐっと引き寄せました。白い蓮のハイライトトーンがなだらかに再現され、蓮の前後を囲むように浮かぶ葉のボケ方もうるさくなくなだらかのボケています。力強い圧縮感のお蔭なのでしょうか、主役の花だけでなくボケている葉の存在感もしっかり伝わってきます。超望遠で撮影する花の写真もありだと感じました。

絞り開放値はF6.3ですが、長い焦点距離を使用して大きなボケを生み出すことができます。明るい中望遠で撮影するのとは一味違うボケ味で表現の幅が広がります。

本レンズの魅力は小型・軽量化だけに留まりません。PFレンズの他にSRレンズ、EDレンズも使用され、軸上色収差を効果的に抑制するとともに素直な色の再現性、バランスの取れたコントラスト、すっきりした解像感が発揮され、S-Lineの名に相応しい描写力です。

水面からの反射光がレフ板で起こした光のようにカバの顔を照らしたので、まるでスタジをで撮影したポートレート写真のような写真が撮れました。このクリアでヌケのよいスッキリした描写、Zマウント用の新しいレンズが発売される度に感動させられっぱなしです。

レンズの重心がカメラボディー側に近づいて設計されているので重量バランスが絶妙で、手持ち撮影でのハンドリングが快適に感じます。動きのある被写体に合わせてスムーズにレンズを追従させられるので撮影に神経を集中することができます。
もちろんカメラとレンズを合わせればそれなりの重量となり誰しもが手持ち撮影できるわけではありませんが一脚や三脚を使用しても重量バランスが取れているとスムーズな動作を行うことができてシャッターチャンスに専念できます。
もちろんカメラとレンズを合わせればそれなりの重量となり誰しもが手持ち撮影できるわけではありませんが一脚や三脚を使用しても重量バランスが取れているとスムーズな動作を行うことができてシャッターチャンスに専念できます。

今回テレコンバーターは使用しなかったのですがDXモード(APS-Cサイズ)で撮影すると焦点距離の1.5倍の1200mmで被写体を写すことができます。4571万画素のZ9ではDXモードの画像サイズは5392×3592ピクセルもあり、D6よりわずか小さいものほぼ同等の画像サイズです。D6に1200mmを装着したことと変わりなく、テレコンバーター装着したことによる絞り値の変化や画質の劣化の影響を受けない画を撮れるのは大きなアドバンテージがあります。

あいにく満月のタイミングに遭遇できませんでしたが昼間の空にうっすらみえる月をZ800mm+Z9のDXモードで撮影してみました。昼間にも関わらずクレーターの凹凸まではっきり認識できるほど細微に月の表面を捉えました。明るい昼間でこれだけ細かく描写する性能なのですから、満月の月を撮影したらさらに凄い月面写真が撮れることは間違いないでしょう。

1200mmのダイナミックな描写は格別ですね。肉眼では見ることのない世界に圧倒されます。
本レンズの外見は超望遠らしい長さがありますが持ち上げた瞬間、見た目とは違う異次元の軽さに思わず驚きの声を上げてしまいました。
レフ機時代には600mmを使用して飛行機や鳥などを撮影してきましたが、レンズ本体の重量が重くて手持ち撮影は数秒しか姿勢を保つことができず、ほとんど一脚か三脚を使用しての撮影でした。
Zマウントとして登場した本レンズは軽量なPFレンズを使用したり設計を見直したりするなど軽量化が進み、重量は2.3kgと大幅に軽量化されて、手持ち撮影もできるほど軽くなりました。重心のバランスもよく動きのあるものを追従する機動力も増しています。撮影した画をチェックすると、現代レンズらしいスッキリとシャープな描写とバランスの取れた発色の良さがひと目でわかります。
飛行機や鳥の撮影で人気を博することは間違いない、と確信を持てるレンズがこの値段と重量でよく実現できたな、と感動モノでした。